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本編
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しおりを挟む宝石商との会話が終わったギルフォードが、部屋の外に出てくる。
「ルイーズ、どうした? こんなところで……」
立ち尽くしていた私の体がぴくりと跳ねた。
「ルイーズ……? 俺がいない間に何があった?」
差し伸ばされた手を、思わず払う。
うつむいたまま告げた。
「ずっと惚れてた女性がいるんでしょう? だけど、フラれたし……世間体や家族の皆のために、私と結婚することに決めたの?」
――最初から、そういう理由で夫婦になろうと言われていた。
そんなことは分かっていたはずだった。
なのに、彼のずっと惚れていた相手が自分ではないことに傷ついていた。
何より、もしかしたら、ギルフォードがちゃんと、その女性にサファイアの婚約指輪を渡せていたら、恋が成就していたかもしれないのに――。
「なんだ……そんなことか。過去の話だし、お前もそんな、くだらないことで悩まなくて良い。俺は別に何も気にしてないから。ルイーズ、ああもう、ほら、機嫌なおせ……――」
くだらない。
その一言で、我慢していた涙が堰を切って溢れ出した。
決してギルフォードは私の悩みをくだらないと言ったわけではない。彼自身の感情をくだらないと言い捨てたのだ。
(ごめんなさい……私、自分のことしか見えてなかった。昔っから、そう)
「ルイーズ……?」
「ギルの気持ちは大事なものよ……くだらなくなんかない」
そうして彼に告げた。
「やっぱり、婚約はなかったことにしましょう」
「ルイーズ? 本当にどうしたんだ?」
いつもは毅然としているギルフォードがたじろいでいるのに気づけなかった。
「……貴方みたいに、周りのことばかり気遣って……自分の気持ちに嘘をつく人、昔っから、好きじゃなくって……」
もちろん嘘だ。
昔みたいにギルフォードに強く言えなかった。
彼の表情が強張っていることにも気づけなかった。
カラカラの喉から、なんとか声を出す。
「ごめんなさい。貴方に相応しい女性は、私以外にいるわ。さようなら……」
「ルイーズ……」
呆然と動けないギルフォードを残して、そのままパーティ会場から駆けだしたのだった。
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