【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

本編

19※

　そうして屋敷に帰りついた。
　奥にある部屋のベッドに二人して絡み合いながら倒れ込んだ。

「ふあっ……あっ……んぅ……」

　組み敷かれたかと思うと、何度も角度を変えて口づけられる。

「ルイーズ……ここまで我慢するのが大変だった」

　彼が前開きのシャツの釦を外した。
　ギシリとベッドが鳴って、身体の上に彼の重みを感じる。
　彼がドレスに手を伸ばしてきた時――。

「あっ……待って、ギル……」

「なんだ？　俺の気分が乗ってる時に……」

　そうは言いつつも、ギルフォードはちゃんと待ってくれた。

「花園での……その、もう『演技なんて辞めちまうか？』っていうのは……」

「ああ？」

　彼がさらりとした金の髪をかき上げる。
　彼の蒼い瞳に射抜かれた。

「そんなの決まってるだろ？　言葉通りの意味だよ」

「それは……その……」

　――ずっと惚れている相手がいると言っていたけれど……。

「別にお互い特定の相手はいない。皆に俺と別れたって説明するのも面倒だろう？　俺は別にお前が職を持っていようが構わない。貴族だろうが働いている女の親を見て育ってきたのは、お前だけじゃなくて俺もだ……」

　彼が続ける。

「俺ならお前のことを一番に理解できるし、お前の名誉も守られる。旦那になっちまえば、勘違いだって気にする必要もなければ、フラれる心配もない。親に嘘をつくなんて罪悪感を抱く必要もない。俺も面倒な女に絡まれることはない」

　ギルフォードの返答にちょっとだけガッカリしている自分がいる。

（本当は好きだったって言ってもらいたかったの？　私ったら……）

　おかしな期待をしてしまった。
　おずおずと返す。

「ビジネス的に言えば、利害の一致ってこと？」

「嘘で婚約者をやってる延長みたいなもんだな。……もう俺以外に、お前を貰ってやろうなんて殊勝な男は出てこないぞ。フラれた男は諦めろ。ん？　どうした、ルイーズ？　なんでお前はすぐに機嫌が悪くなるんだよ……」

「別に……そんな……機嫌が悪くなんて……」

「お前が別に俺を好きじゃないのは知っている。家族同然に育ってきたお前の方が気心も知れているし、周りも喜ぶ」

　それは確かにそうだが……。

「ギル。貴方本人は、そんな風に結婚相手を決めても良いの？」

「俺も女はよりどりみどりだが、お前との身体の相性も悪くはなさそうだし、夫婦になってから、俺のことを好きになってくれても構わない。その方が夢があるってもんだろう？　……ああ、それともそうか……」

　彼がちゅっと口づけてきた。
　そうして意地悪くにやりと口の端を上げる。

「他の女みたいに、色々俺に口説いてほしいのか？」

「ち……違うわよ！」

　すると、彼が髪を撫でてきた。

「ああ、また元気に戻ったな……それで、答えはどうだ、ルイーズ？」

　答えなんてとっくに出ているはずなのに、しばらく悩んだ振りをする。
　そうして、答えた。

「分かったわ……貴方の言う通りにしたら、皆傷つかないだろうし」

「ありがとう」

　だけど、そう言った彼の表情はどことなく寂しそうで――。

（なんなの？）
　
　けれども、次の瞬間には、普段の不遜な彼に戻っていた。

「じゃあ、ルイーズ、気をとりなおして続きだ。希望通り、優しく抱いてやるよ」