【R18】護衛対象はオネエな王子様――溺愛王子は夜、獣に豹変する――

19 ヒルデside（過去回想）

　十数年前。

　第二王子である自分にとっては姉に当たる人物――第三王女が亡くなった。
　彼女はもちろん王族だったが、正義感が強く、男女差をものともせずに働く女性だった。

『誰かの力になりたい』

　男とか女とか関係なく尊敬できた。
　女性の視点を生かしながら、男性と切磋琢磨して様々な改革に取り組んだ。
　女性が騎士として働くことに父王達は反発していたが、本人は気にしていなかった。
　けれども不幸にも、任務中に事故で亡くなってしまう。

「姉様……」

　父王は女性が騎士として働いたからだと嘆いた。
　――結局、姉は誰の役にも立てなかったと。
　彼女の話をすると、王の機嫌が悪くなるからと、誰も口にしなくなっていった。
　だけど、少年である自分は彼女のことが忘れられなくて――彼女に似た振る舞いをするようになった。
　自然と女性のような所作を身につけてしまって、喋り方も姉のようになってしまったのだ。
　最初は父王も色々と言ってきていたが、次第に何も言わなくなった。

　段々、自分も彼女を忘れそうだった。

　次第に女性のような振る舞いが、自分のアイデンティティの一部になった。

　そうして、数年前。

　姉が事故で亡くなった場所に花を手向けにいった。

　そこには一人の少女がいた。
　十二歳ぐらいだろうか。
　ちょうど、騎士学校の募集の紙を見ていた。
　女性のふりをして近づいて声をかける。

「女性だけど、騎士に興味があるの？」

「は、はい！　貧乏だから、お金をもらいながら学校に通えるのは魅力的で……」

　――金が理由か。

　悪い理由ではない。

　家族を養いたいという気持ちも健気で悪くない。
　
　だけど、勝手に少女に何か期待して、勝手に醒めた気持ちになった。
　姉のように強い志を持った女性は、やはり、この世に存在しないのだろうか――。

「お金がほしいだけなら、女性ならお針子なんかは？　別に子女学校にだって通わせてもらえるところがあるわ。アタシが紹介しましょうか？　騎士はさ、男仕事なところもあるし……半端な気持ちで学校入って、辞めたやつもよくいるみたいだし……」

　その時、少女はこう言った。