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しおりを挟むそうして、迎えた夜。
結局、酒場で男性の同僚騎士達と一緒に呑んでいた。
けれども、頭の中は昼の出来事でいっぱいで上の空だ。
(……ヒルデ様は男の人……)
今日の出来事で一気に意識させられてしまった。
普段は女性同士のように付き合ってきていた彼だったが、圧倒的な力の差。
(ずっと……女性の……姉のように尊敬できる方だと思っていた……)
けれども、触れられたことを思い出すと、勝手に身体が火照ってしまう。
女性らしい方だが、男性なのだと全く意識してこなかったわけではない。
(決して好意から、私にあんなことをされたのではない。男性の力がどれだけ強いかを分からせようとして取った行動に過ぎない)
そもそも相手は一国の王子であり、護衛対象なのだ。
(潰れそうな子爵家出身の私では身分も違い過ぎる……)
いつも優しくて、貴賤問わずに接してくれる王子。
男性だけれども、誰よりも気遣いに長けていて、優しいヒルデ様。
(分不相応な想いは抱いてはいけない)
けれども、将軍の息子と一緒にいたヒルデ様のことを思い出すと、どうしても胸が軋んでしまう。
あの美青年が主君の想い人なのだろうか。
(私はヒルデ様の護衛騎士でずっといたい……)
今日のことは忘れよう。
(明日からはいつも通りに接することが出来るように……)
酒を飲んで忘れてしまおうと思ったのだ。
彼が身を持って知らせてくれたように、男性たちの中に女性一人なのだということを肝に銘じて――。
だけど、思い出すのはヒルデ様の顔ばかり。
酒の入ったコップを手に、はあっとため息を吐く。
水面に憂鬱な私の顔が映った。
「エレナ、もっと楽しんだらどうだい?」
同僚騎士のレインが声を掛けてきて、はっとなる。
彼のさらりとした黒髪が目に入ってきた。
「ああ、レイン……」
ガヤガヤとした喧騒の中へと意識が戻る。
グラスの鳴る音や、男たちの笑い声が響いた。
酒の匂いや、脂っこい香りが鼻腔をつく。
「エレナらしくないな。飲みの場は初めてだから緊張しているのか?」
緊張することさえ忘れてしまっていた。
「お前が酒に強いのは意外だったよ」
「今まで皆と飲んだこと、なかったから」
「そうだな。ああ、もう、ぬるくなっているだろう、その酒。せっかくだから、ほら新しいのをどうだ?」
レインに促され、新たなグラスに口をつける。
こくこくと飲み干す。
口の中に甘酸っぱいブドウの香りが拡がっていく。
「ありがとう、レイン……」
その時――。
(あ……)
――ぐらりと目眩がした。
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