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しおりを挟む久しぶりの外だ。
大寒(※寒さのピークを迎える旧暦十二月の中頃のこと。新暦では1月20日頃)を迎え、葉のない樹々と街灯が立ち並ぶ道を、椿は清一郎と共に歩いていた。
鳩羽色(※鳩の首元のような青みと灰みを帯びた薄紫色)のアルスターコート(※トレンチコートの原型であるダブルコート)を纏う広い背中が、彼女の前を進む。
日本人離れした容貌に長身の彼はとても目立ち、道行く女性たちが振り返っては頬を染めていく姿が散見されたが、彼は何食わぬ顔で前進し続けていた。
(清一郎……)
顔を伏せた椿が、ぎゅっと胸の前で手を握ると、彼が選んでくれた紫色の矢絣(※弓矢の矢羽根の形を交互に配置した柄)の長着に皺が出来る。
(……昔のように隣に並んではくれないのね……)
椿が幼い頃、一緒によく散歩をした道だ。
それが余計に、椿の心の中の虚しさを強く掻き立てる要因となった。
相手に何かを期待するから辛くなるのだ。
だから、期待なんてしなければ良い。
だけど、昔優しくしてもらえた記憶が思い出されて……。
どこかで覆せない状況をどうにか出来るのではないだろうかと――何度も同じことを反芻してしまう自分がいる。
ちょうど、昔、彼を拾った場所に差し掛かった。
「清一郎……」
小さな声だったけれど、思わず呼びかけてしまった。
けれども、彼がこちらを振り返ることはなく――。
胸が張り裂けそうなほどズキズキと痛む。
名など呼ばなければ、再び苦しまなくてすんだのに……。
いいや、そもそも、彼が迎えにさえ来なければ――。
こんなに苦しい思いを蒸し返されるぐらいなら、忍に吉原に売られていた方がマシだったのだろうか――?
椿の心は真っ黒に塗り潰されていくようだった。
その時――。
前を歩いていた清一郎が歩みを止めた。
思いがけず、彼の隣に立とうとした椿だったが――紅梅色の袴へと手を降ろして立ち止まる。
なんだか恐くて、それ以上前に進めそうになかったのだ。
すると――。
「――椿様」
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