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「それは……」

 焦燥が胸の中に湧き上がる。
 頭の中では理解できても、感情が追いつかない。
 そうして、咄嗟に出てきた言葉は――。

(せめて……妻に……してもらえたなら……)

 その時――。

「――いつまでも貴方が純真無垢なままのようで本当に良かった……だって――」

「え?」

 清一郎が昔のように相貌を和らげ、慈しむように椿のことを見ているではないか。
 いよいよ少女時代に戻ったようで、胸がきゅうっと疼いてしまう。
 昔と変わらないところの残っている清一郎。
 今の状況を受け入れたくなくて、心の均衡を保とうとしただけかもしれないが――。
 妻にしたいと言われたわけではない。
 だけど、いつか見た活動写真のような恋物語のように――彼が自分のことを求めてくれているのではないかと――彼女は心の奥底で淡い期待を抱いてしまう。
 
 そうして――。

 椿の顔を柔らかく撫でながら、彼が放ってきた言葉は――。


「穢しがいがあるからな……」


 ――椿はそれ以上何も言えなくなった。
 
 清一郎は恍惚とした表情を浮かべながら、ネクタイを緩めて一番上の釦を外すと、流線を描く鎖骨と鍛え抜いた胸板が露わになる。
 均整のとれた体つきに思わず見とれている間に、彼が彼女の袂を乱暴に乱した。

「きゃッ……!」

 淡く白い乳房がまろびでて、彼の視線に晒される。
 それだけでも恥ずかしいのに、着物の裾と襦袢を割ってきた彼の大きな手が、彼女の太股を撫で始めた。

「あッ……清一郎……こんな車の中で……やめて……」

 だが、彼の愛撫が止むことはなかったし、乱暴に帯は解かれ続ける。
 抵抗むなしく、開かれた両脚の間は――。

「ああ、恐怖によるものか快楽のせいか……もうこんなに蜜を溢れさせているのか……」

「あ……」

 羞恥を感じる間もなく、ベルトを解いた下衣を寛げた彼の、そそり立つ巨根が彼女の蜜口の上をヌルヌルと蠢きはじめた。

「ふあッ……ああッ、あッ……」

 言い様のない快楽が走り、椿の口から嬌声が漏れ出る。
 これから何が起こるのか分からないが――身の危険が待ち構えていることには、さすがの椿も気付いていた。
 そうして、純潔の襞に守られた入り口に、獣の先端が宛がわれる。

「なあ、椿姫……。ガキの頃に助けて俺を哀れんでやったぐらいに、貴女は思っているんだろう?」

「それは……そうなんじゃ……」

 祖父からの援助のおかげで、彼は役者として大成しつつあったし、何より衣食住にも困らなかっただろう。

 だが――。

「俺としては、男に生まれてきたのに、男に触れられて――正直虫唾が走ったよ……」

 え――?

 彼の云わんとする意味は――。

 けれども、それ以上、彼に何かを尋ねることは出来なかった。

 ――復讐の焔を宿す瞳が、黒い瞳をのぞき込んでくると、彼女はその場で動けなくなってしまう。
 両手首を彼の両手に掴まれると、カタカタと全身が小刻みに揺れ動いた。
 背中に車のタイヤが駆け抜けていく振動を少しだけ感じる。

「だから、決めていたんだ、ずっと……」

 彼女を奮い立たせていたのは、公家の血筋による矜持か――。

「何……を……?」

 清一郎がゆるりと口を吊り上げた。


「あの男の代わりに――俺が貴女のことを貪りつくしてやろう……ってな……」


 愉悦を浮かばせる清一郎が椿に向かって続ける。


「さあ、はじめようか――褥の上じゃあない、この場所で……生涯、俺に初めて抱かれたこの日を忘れられないように――お前の身体に俺を刻みつけてやろう……」

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