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月の章
第28話 新月の夜2
しおりを挟む新月の夜――。
(想像していた以上に、塔へと続く森が暗いわ――)
小道もあまり整備されているとは言えず、ところどころに石が転がっている。
(足許が見えづらい)
踵が低い靴を履いているにも関わらず、ティエラは何度もつまづいた。
「姫様、手をひきましょうか? まあ、姫様の手をひいて歩いたことが分かったら、私はルーナ様に殺されるかもしれませんけどね――まだ死にたくはないかな~~」
「――結構です、ウムブラ」
「まあ、二十も年上のおじさんじゃ嫌ですよね」
ウムブラの答えに、ティエラは怯んだ。
「貴方は、杖もついていらっしゃいますから」
「理由、それだけですか~~?」
ウムブラは、穏やかというよりも飄々としていると言うべきか、とにかく掴み所がない人だった。ティエラが何か質問したとしても、するりとかわされてしまう――。
「姫様、見えましたよ」
二人が森を抜けると、そびえ立つ塔が奥に見えた。
(塔の入り口前に、騎士がいるのかと思っていたのに――誰も立ってなかったわね――少し妙ね……すんなり中に入れたのは良かったけれど……)
塔の中には螺旋階段がある。
地上階から見上げたところ、尖端は見えない。
(かなりの距離を歩かないと、塔の一番上にはつかないようね――)
階下では、松明によって灯りが点されている。だけれど、上に行くにしたがって、灯りがないようだった。
(階段の横には、柵も立てられてないなんて――)
ティエラとウムブラの二人は、壁づたいに手をついて登っていった。
(落ちないようにしなきゃ――)
――どれくらい歩いただろうか。
なんとか塔の最上階に、二人は着くことが出来た。
ティエラの額には汗がにじんでいる。汗はそのまま頬を伝い、流れていった。
ウムブラはというと、片手に杖を持ち、義足を引きずるように歩いていたというのに、汗一つ流れていなかった。
(体力があるのかしら――?)
「姫様、一人でよく上りきれましたね」
ウムブラが、ティエラに笑顔を投げ掛けた。
「あの時、貴女の手をひいていたら、ルーナ様から私は殺されていましたよ~~」
(笑えない冗談ね――)
しかし、少しだけ場は和んだ。
(ついに最上階――)
重い扉を開く――。
扉の先には、広場があった。
広場の真ん中には台座が設置してあり、中央のくぼみに淡く光る玉がみえた。
(あれがおそらく、神器である宝玉――)
玉は、とても神秘的な光を放っている。
(とても綺麗――)
けれども悠長にはしていられない。
(誰かが――ルーナが、ここに来るかもしれない、急がなきゃ)
ティエラは意を決して、宝玉の元へと進んだ――。
慎重に先に進む。
(良かった、これで記憶が――)
もうすぐで宝玉に手が触れるという時――。
「そこまでだ」
――ティエラの背にある扉の方から、声が聞こえた。
「貴女は何をやっているのですか――?」
涼しげというよりも、彼女を制する冷たい声が――。
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