29 / 31
月の章
第28話 新月の夜2
しおりを挟む新月の夜――。
(想像していた以上に、塔へと続く森が暗いわ――)
小道もあまり整備されているとは言えず、ところどころに石が転がっている。
(足許が見えづらい)
踵が低い靴を履いているにも関わらず、ティエラは何度もつまづいた。
「姫様、手をひきましょうか? まあ、姫様の手をひいて歩いたことが分かったら、私はルーナ様に殺されるかもしれませんけどね――まだ死にたくはないかな~~」
「――結構です、ウムブラ」
「まあ、二十も年上のおじさんじゃ嫌ですよね」
ウムブラの答えに、ティエラは怯んだ。
「貴方は、杖もついていらっしゃいますから」
「理由、それだけですか~~?」
ウムブラは、穏やかというよりも飄々としていると言うべきか、とにかく掴み所がない人だった。ティエラが何か質問したとしても、するりとかわされてしまう――。
「姫様、見えましたよ」
二人が森を抜けると、そびえ立つ塔が奥に見えた。
(塔の入り口前に、騎士がいるのかと思っていたのに――誰も立ってなかったわね――少し妙ね……すんなり中に入れたのは良かったけれど……)
塔の中には螺旋階段がある。
地上階から見上げたところ、尖端は見えない。
(かなりの距離を歩かないと、塔の一番上にはつかないようね――)
階下では、松明によって灯りが点されている。だけれど、上に行くにしたがって、灯りがないようだった。
(階段の横には、柵も立てられてないなんて――)
ティエラとウムブラの二人は、壁づたいに手をついて登っていった。
(落ちないようにしなきゃ――)
――どれくらい歩いただろうか。
なんとか塔の最上階に、二人は着くことが出来た。
ティエラの額には汗がにじんでいる。汗はそのまま頬を伝い、流れていった。
ウムブラはというと、片手に杖を持ち、義足を引きずるように歩いていたというのに、汗一つ流れていなかった。
(体力があるのかしら――?)
「姫様、一人でよく上りきれましたね」
ウムブラが、ティエラに笑顔を投げ掛けた。
「あの時、貴女の手をひいていたら、ルーナ様から私は殺されていましたよ~~」
(笑えない冗談ね――)
しかし、少しだけ場は和んだ。
(ついに最上階――)
重い扉を開く――。
扉の先には、広場があった。
広場の真ん中には台座が設置してあり、中央のくぼみに淡く光る玉がみえた。
(あれがおそらく、神器である宝玉――)
玉は、とても神秘的な光を放っている。
(とても綺麗――)
けれども悠長にはしていられない。
(誰かが――ルーナが、ここに来るかもしれない、急がなきゃ)
ティエラは意を決して、宝玉の元へと進んだ――。
慎重に先に進む。
(良かった、これで記憶が――)
もうすぐで宝玉に手が触れるという時――。
「そこまでだ」
――ティエラの背にある扉の方から、声が聞こえた。
「貴女は何をやっているのですか――?」
涼しげというよりも、彼女を制する冷たい声が――。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
【完結】君が僕に触れる理由
SAI
BL
八田台美術大学に通う高橋歩は同じ学科に在籍する早瀬のことが好きだ。叶わない思いを胸に抱いたまま早瀬の親友である佐倉の手で欲望を発散させる日々。
これは自分の気持ちに鈍感な主人公の恋愛物語。
※性描写を伴う箇所には☆印を入れてあります。
全17話+番外編
番外編の5年後にだけ挿絵があります。
8/24 番外編3話 追加しました。
9/12 アンダルシュ様企画 課題【お月見】に参加予定の為、一時的に完結表示が消えておりますが、本編は完結済みです。ショートストーリー【お月見】は9/18公開予定です。
10/19 こちらの作品の続編にあたる【酷くて淫ら】完結しました。早瀬メインのストーリーになっております。
婚約破棄? 別にかまいませんよ
舘野寧依
恋愛
このたびめでたく大嫌いな王子から婚約破棄されました。
それはともかく、浮気したあげく冤罪押しつけるってなめてますよね? 誠意のかけらもありません。
それならば、あなた方の立場をきっちりと分からせてあげましょう。
【完結】仕方がないので結婚しましょう
七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』
アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。
そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。
アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。
そして、その度に正論で打ちのめされてきた。
本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。
果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!?
*高低差がかなりあるお話です
*小説家になろうでも掲載しています
LOVE THEME 愛の曲が流れる時
行原荒野
BL
【愛の物語のそばにはいつも、愛の曲が寄り添っている――】
10年以上片恋を引きずっている脚本家の高岡勇士郎は、初めての大きな仕事を前にしたある日、色々と様子がおかしい高身長の(よく見るとイケメン)青年、栗原温人と事故のような出逢いを果たす。
行きがかり上、宿無しの温人を自宅に住まわせることにした勇士郎だったが、寡黙ながらも誠実で包容力のある温人のそばは思いのほか心地よく、戸惑いながらも少しずつ惹かれてゆく。
そんな時、長年の片思いの相手、辻野から結婚式の招待状が届き――。
欠けたピースがピタリとはまる。そんな相手に出逢えた、ちょっとおかしなふたりの優しい恋をお楽しみください。
※ムーンライトノベルズに掲載していたものに微修正を加えたものです。
※表紙は画像生成AIとイラスト加工アプリを利用して作成したものです。
いいねやエール、お気に入り、ご感想などありがとうございます!!
箱庭のエデン
だいきち
BL
人の負から生まれる怪異に対抗するのは、神の力を異能として操る祓屋だ。しかし、降臨地区の一つである京浜には神がいなかった。
神無しと馬鹿にされる街へ左遷されてきた白南由比都は、盲目の祓屋だった。
非公式祓屋集団、お掃除本舗そわか。その社長、夜見綾人の下で働くことになった由比都は、夜見にひどく振り回される羽目になる。
人懐っこい夜見によって徐々に心を解されていった由比都へ、神がいない秘密が明かされようとした時、強大な怪異が二人を襲う。
京浜地区で多発する、過去にない怪異の異常行動。解決の鍵を握るのは、由比都の心の傷にあった──。
最強の異能を持つ能天気大型犬攻め×流され系毒舌ツンデレ美人受け
狭い世界の中、私の世界の輪郭は貴方だった。
バトルBL小説企画作品
ハッピーエンド保証
ギャグ要素あり
すれ違いあり
濡れ場は最後の方
よろしくお願いします。
小夜啼鳥 ~Nightingale~
とりもっち
BL
母に捨てられ父に暴力を振るわれる小学生が出奔するお話。虐待注意。
※見るも見ないも自己責任。注意一秒、怪我一生。転んでも泣かない。誰かの萎えは誰かの萌え。
何でも美味しく食べられる雑食向け。以上を踏まえた上で、ばっち来いやーってな方はどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる