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月の章

第19話 近づく新月の前に

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 久しぶりに、ルーナがティエラの部屋を訪れた。

(ルーナに会えてほっとするような、どう接して良いのかわからないような……複雑だわ……)

 ルーナの表情には疲れが色濃く滲んでいる。

(ルーナの蒼い瞳が、少しだけ曇って見える……)

 いつもはティエラの顔を見るとすぐに距離を縮めてくるルーナだったが――。

(今日は少しだけ距離が遠い――?)

 躊躇いがちにルーナが切り出した。

「姫様……先日は、大変申し訳ございませんでした。怖がらせてしまいましたね……」

 哀しげにルーナは瞼を伏せる。

(あ――)

 ティエラはルーナの様子を見て、胸が苦しくなった。

(どう、声を掛けたら良いかしら――?)

 少し間を置いて、ティエラはルーナに声をかけた。

「あの日は怖かったですが、今は大丈夫ですので……ルーナはいつも通りのルーナで居てください……」

 そう告げると、ルーナははっとした様子だった。

「姫様はやはり、お優しいですね」

 ルーナの表情の硬さが、少しだけ和らいだ。
 彼は、涼やかな声でティエラに懺悔する。

「姫様に嫌われたのかと思い、しばらく部屋に参ることが出来ませんでした」

(ルーナは私よりも十歳は年上のはずなのに、なんだか小さな子どものみたいね――)

 ティエラの胸に罪悪感がわいた。
 いつもとは違い、彼女は自分からルーナに歩み寄る。

(ルーナ……)

 ルーナの白金色の長い睫毛を、涙が濡らしていた。
 以前、彼がティエラにしてくれたように、彼女はルーナの涙を指で拭った。
 両手でルーナの顔を包み、ティエラは彼の顔を覗きこむ。

「ルーナ。私は貴方を嫌いになんて、なれません……」

 海のように美しいルーナの瞳に光が宿った。
 しばらくした後に、彼はティエラに声をかける。

「……記憶を取り戻したとしてもですか?」

 その声は消え入るように小さかった。
 ティエラは、ルーナの瞳をしっかりと捕らえる。

(ちゃんと伝えないと、ルーナがいなくなってしまいそう――)

「記憶が戻ったとしても、私は絶対にルーナを嫌いにはなりません」

 ティエラは力強く伝えた。
 室内に、ルーナの嗚咽が響く――。
 小さな子どものようなルーナを、ティエラはそっと抱き締めた。

(私のお父様を殺した犯人――もし、私の想像通りだったとしたら――)

 気付かないようにして目を背け、ティエラは泣きじゃくるルーナのそばに居続けた。


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