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月の章
幕間という名の小休止
しおりを挟む「もう、本当に一体全体どうなってるんですか~~? 姫様に忘れられるとか~~。グレーテルはすごくショックなんですけど~~」
そう話す女性の名は、自称通りグレーテルと言い、ソルの付き人をしている。
長い黒髪を、左右の高い位置でリボンでまとめ、肩先まで垂らした髪型をしている。そして、使用人が着る黒を貴重としたワンピースに、白いフリルを多くあしらったエプロンを着用していた。
「グレーテルさんほど、印象の強い女性もいらっしゃらないんですけどね~~」
グレーテルに返すのは、糸目の男アルクダだ。アルクダも、グレーテル同様、ソルの付き人の一人だ。アルクダは、ツンツンとした淡いピンク色の髪をしている。釦ではなく紐で結ぶ若葉色の麻の上衣に、茶色の下衣を身に付けていた。
一見すると、貴族の嫡男であるソルに仕えるような見た目をしていない。
「アルクダさんにそう言われるのは、グレーテル、なんだか釈然としないんですけど~~」
「そうですか? 僕としては僕ほど印象が薄くて、仕事しない男もいないと思ってるんですけどね」
「え~~アルクダさん、印象は薄くないですよ~~、仕事はしないですけど~」
二人は延々とお喋りを続けている。
「そもそも僕はあのお姫様苦手なんですよ。ソル様が無茶するから。大体ソル様が無茶して、大変になるの僕なんですから」
「え~~、姫様を苦手とか言うなんて、やっぱりグレーテルはアルクダさんとは仲良くなれそうにありません~~」
「グレーテルさん、そんなこと言わないでくださいよ~~」
本当に二人は、ただ喋り続けているだけだ。
間延びした二人の不毛な遣り取り。それを端からみていたソルは、ため息をついた。
「それにしても、ソル様!」
「……なんだ?」
グレーテルが、突然、ソルを大きな声で呼んだ。
挙げ句の果てに、彼女は主であるソルを指差した。
「姫様のドレス……! かんっぜんっに! ルーナ様の好みでしたよ!」
彼女は強い口調で言い切った。
「は……? ティエラのドレス……?」
先程再開したティエラの格好を、ソルは思い出した。
胸元の開いた白いヒラヒラしたドレスだった気がする。
「寝る前ぐらいの時間だから、ああいうドレスを着てることも時々――」
「いいえっ! あれは記憶を失った姫様に、あんな格好やこんな格好をさせてますよ! 絶対にそうです! グレーテルが断言します!」
ソルの答えを遮るように、グレーテルは叫んだ。
ティエラは、落ち着いた色合いのドレスを好んで着ていた気はする。
ただ、寝る前に限っては、リボンの多いドレスをティエラが着ることもあった。
「それで?」
グレーテルは息を吸い込み、ソルに向かって一気に捲し立てた。
「最近、どこかの誰かさんの好みか何か知りませんけど、姫様はずーっと地味目な格好が多かったから、可愛かったなぁって!」
「は――?」
「グレーテル、ルーナ様は苦手だけど……姫様のドレスの好みは、ソル様よりもルーナ様寄りなんですよ~~!」
ソルは彼女に何も答えなかった……。
現状で抱くべき感情ではないかもしれない。
ウムブラとヘンゼルという優秀な付き人を持つ、白金色の髪と蒼い眼をした気に食わない青年――。
ソルはルーナのことを、今日ばかりは羨ましいと感じずにはいられなかった。
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