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第10話_2 二人の物語の始まり※

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 シュタインが、もったいぶるだけもったいぶった。


(良いから早く言いなさいよ――!)


 そうしてためるだけためて言い放つ。



「――シュタイン――シュタイン・ロクス――」



 彼の名を聞いて、わたしは瞠目する。

(シュタイン・ロクス――!? それって、まさか――)


 継母が金切り声で叫んだ。


「なんで!? なんでこんな辺境にいるんだよ――!?」


 彼女は続ける。


「――――帝国の皇太子が――――!」


 そう――。

 シュタイン・ロクスは、ロクス帝国の皇太子の名だったのだ。

(嘘……ではない?)

 あの変態に、騎士達が皆従っている。
 それは、彼が権力者である証のように感じた。

 シュタインは睥睨しながら、継母に告げる。

「北部領の方が、お前に殺された女性たちの収集をしやすかったからだよ――」

 継母はぶるぶると震えていた。

 彼女は騎士を振り切って、窓から雪の降り積もる外へと逃げようとする。
 だが、外を覗いた継母が愕然とする――。

「な――! 帝国の騎士が、こんなに――!?」

 寝転がるわたしからは見えなかったが、どうやら外では騎士達がひしめきあっているようだった。
 窓辺から大量の馬が嘶く声が聞こえる。

「くっ――こ、皇太子殿下――」

 そうして、彼女は猫なで声に変わりながら、シュタインに告げた。

「皇太子殿下とは知らず、とんだ無礼な、ま、真似を――その――どうかご慈悲を――わたくしには殺した心当たりがございません――証拠もないでしょう?」

 彼女は続ける。

「そ、それに国王はわたくしを愛しております。竜を封印できる神器の国である我が国を敵にまわすのは、帝国にとっても不利なのでは――?」

 ここにきて、しらを切りとおし、あまつさえ脅そうとする継母に、わたしはあきれてしまう。
 するとシュタインは、彼女を鼻で笑った。

「お前の夫であるオルビスの国王は、ヴィオレッタの母を愛していたようだよ。男を産めという圧力で仕方なくお前を次の正妃にしたらしい。お前が、ヴィオレッタの母殺しの犯人であること、皇妃殺害に関与していることを告げたら、すぐにお前の裁判権を我々に渡してくれたよ」

「そ、そんな、あのひげもじゃ男め――――!」

 継母は悪態をつく。

「国王はオルビス内での不審死の情報も渡してくれた。全て同じ毒だ。そして輸入が禁じられている食べ物をお前が密輸していたその経路についても、お前の部屋から大量にその果物から得られる毒があったことも、国王の協力の元に調べがついている」

 シュタインは継母を見下ろしながら告げた。

「もうこれ以上の話は不要だ――」

 騎士数名が、愕然とする継母を連行しはじめる。

「ぎっ、ぎぃやあっ――! ち、違う! わたしは、わたしは違う! お願いします! 命だけは、慈悲を!」

 彼女を嘲笑いながらシュタインが答えた。

「だったら、お前もこの薬を飲んでみろ――死にはしない薬だが、実験台がほしくてな? さあ、どうだ――?」

 シュタインが懐から、いかにも怪しげな小瓶を取り出した。
 継母は一瞬だけたじろぐ。

「し、死にたくない! の、飲みます……! 」

 言われるがまま、継母は瓶の中身を飲み干した。

 すると、彼女は呻いて瓶を取り落としてしまう。

「か、体が、あ、あつい――――!」

 継母を見下ろしながら、彼は続けた。

「その薬、別にいたって普通の薬なんだけど――合わない人間なら、皮膚がただれる薬なんだ――ほら、肌が焦げ付く匂いがしてきただろう――?」

「そ、そんな、わ、私の美貌が―――!」

 シュタインは笑いながら続けた。


「ただでは死なせないさ――国母たる人物たち、いや――数多くの女性を殺してきたお前には、永劫の苦しみを与えるよ――」


 笑うシュタインは、変態を通り越して狂気じみていて、ちょっと怖かった。

 継母の絶叫が室内に響き渡る。

 そうしてそのまま、わたしは意識を手放したのだった――。
 


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