上 下
9 / 26

第5話_1 仕方ないから手伝うわ※

しおりを挟む



 北の大帝国ロクスの最北端の岬に坐する古い城。

 断崖絶壁のその場所に、金髪碧眼眼鏡なイケメンであるシュタインとわたしは暮らしている。

 時折、打ち寄せる波の音ともに、舞い上がった潮風が鼻をくすぐってくるような場所だ。

 シュタインの活動範囲は狭く、古い城とその周囲だけにとどまっている。いつも魔術の研究にふけっているのだが、時折、忽然と姿を消すことがある。しかしながら、何をやっているのかまでは知らない。
 実は、古い城の尖塔から見下ろすと、小さな村が近くにあることがわかった。シュタインは、どうやらその村に向かう。

(納税かしら? そもそも一人でどうやってお金を取り立てて、中央政府に渡しているわけ?)

 シュタインに関しては、いまだに謎が多かった。

 小さな村から帰ってくると、彼はわたしによくお土産をくれる。
 だけど、あまりにもダサいものが多い。

 この間も、首がもげかけたいかつい熊のぬいぐるみをくれた。熊の口は縫い付けられている。正直、奇抜なデザインで可愛さとは程遠い。

「なに、これ? 呪術とかに使うの?」

「呪術であるものか! 村のおばあさんが、女性は人形の類が好きだと言って、これを売りつけてきたんだ。ヴィオレッタも城で退屈だろうから、プレゼントしようと思ったんだ」

 シュタインの言葉を聞いて、わたしはあきれてしまった。

「ふうん……たぶん、あなた騙されてるわよ。廃品回収ついでにお金までもぎとられたのよ」

 わたしがそういうと――。

「まさか! この俺が、騙されるような人間に見えるというのか!? ヴィオレッタ、君はまずその考えを改めた方が良い! わたしはどちらかと言えば、人を騙す狡猾な人間で……!」

「何? シュタイン、自分ではそういう設定のつもりなの?」

「設定じゃない!」

 彼なりに、自分をこう見せたいというのがあるらしいのだが、残念ながら、彼の理想と現実のギャップは激しい。

 わたしが彼を現実に直面化させると、彼は毎度のごとく嘆いていた。

(死体が好きな変態だってことをのぞけば、人が良いのは間違いないわね……)

 わたしは、嘆くシュタインを見て、こっそり笑んだのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

甘く優しい世界で番に出会って

能登原あめ
恋愛
* R18シリアス寄りのお砂糖過多な話です。  14歳のマミは母と2人暮らしだが、ある日母の恋人に身の危険を感じて、ベランダに隠れる。  目がさめると草原にいて……?  獣人のいる世界で言葉もわからないのに温かい家庭に迎えられて番の男の子に出会うお話。   * ヤマのない甘いだけの話となっております。疲れた時に読んでいただければと思います。 * 全六話+おまけ数話+番外編。 * 年齢を2つほど引き上げて少々改稿しました(2022.01) * Rは、終盤。※マークあり。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

処理中です...