【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)

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無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる【短編版】

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(私がエスト・グランテに嫁いできてから、もう一か月が経つのね……)

 宣言通り、夫になったはずのデュランダル将軍は、私の元を訪れてはこなかった。

(あの日以来、姿も見ていない……)

 デュランダル将軍の屋敷で暮らすようになって、特に不自由のない生活をしていた。
 仕事で忙しいのかもしれないが、彼が屋敷によりつくことはない。使用人たちの話によれば、酒屋に行ったり、他の女性の元へと遊びに行っているらしい。

(意を決して嫁いできたけれど、彼の言う通り、結局のところ捕虜でしかないのね……)

 周囲からは一定の距離を置かれ、誰からも求められない。
 慣れない土地ということもあり、日に日に心が沈んでいくのが自分でも分かった。

(ご飯も喉を通らないわ……)

 涙が溢れ出して止まらない。

 辛くて仕方がなかった。けれども――。

 ――実は最近、私の心の支えになっていることが一つだけある。

「コハク、おいで~~」

 私が声をかけると、白くてふわふわとした毛並みの猫が、するりと部屋のどこかから現れた。白猫は、私の脚へすりすりとすり寄って、気持ちが良さそうに鳴いていた。

(相変わらず可愛いわ……! 屋敷に仕えるメイド達から教えてもらったのだけれど、ここらに棲みついている猫らしいわね。この子と接していたら、心が安らぐ……)

 白猫の脇を両手で抱き上げると微笑みかける。

「コハク、あなたがいるから、私……寂しくない」

 にゃおと、コハクは答える。

「うふふ、あなたに会うために、私はこの国に――この屋敷に来たのね、きっと」

 ちょうどその時、部屋をノックする音が聴こえた。

 部屋に入ってきたのは――。


「こいつが、俺以外の人間になつくなんて珍しいこともあるもんだな……」


 ――二度目の出会いを果たした、名目上の夫デュランダル将軍だった。

「あ……」

 するりとコハクは私の腕を抜け、彼の肩へと移る。

「そう怯えなさんなって、兄貴やら宰相に、お前に会いにいけって言われて顔を見に来ただけだ――なんだ、泣いてたのか? こびてくる女ばかりで飽き飽きしてはいるが、お前みたいな頭が弱そうで、かよわいだけの女は苦手なんだよな、俺は……」

 頭上からそう言って見下ろしてくる将軍が怖くて悲しくて、涙が自然と零れていく。

 急に――大きな彼の手が、ぎこちない動作で私の顎を掴んでくる。

「まあ、でもお前が嫁の役割を果たしたいっていうなら――」

 彼の唇が近づいてくる。

「いやです!」

「ああ?」

 低い声を出す彼の顔を、手で覆いのける。

 明らかに不機嫌になった彼が怖くて、身体がびくりと震えた。

「そうかよ。無事は確認した。じゃあ、俺は出て――」

「あ、あの……でも……待ってください!」

 部屋から出て行こうとするデュランダル将軍の腕を咄嗟に掴んだ。


「痛っ――」


 彼が小さなうめき声を上げる。
 コハクが彼の肩からするりとどこかへ向かった。

「やっぱり」

 彼の右手首を見ると、赤く腫れあがっていたのだった。

「離せ。このぐらい、しばらくしたら治る」

「貸してください」

 そうして、治癒術を彼にかける。仄明るい光が灯り、しばらくすると彼の腕の腫れは引いていった。
 
 眉をひそめながら、デュランダル将軍が声をかけてくる。

「どうして、分かった? 俺が手首をひねっていたこと」

「顎を掴む動作が、前に会った時よりもぎこちなかったので」

「――そうかよ。礼を言う」

 そう言うと、今度こそ部屋からデュランダルは姿を消す。

「ただの……めそめそしただけの女じゃなさそうだな」

 去り際に彼が何か言ったようだったが、私の耳には届かなかったのだった。



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