上 下
109 / 118
無垢な花嫁は、青焔の騎士に囚われる【短編版】

3※

しおりを挟む



(私は今日、エストの王弟であり将軍である男性のもとに嫁ぐ)
 
 顔も知らない男性と結婚をするなんて、王族や貴族の間では普通のことだ。

 女性はいつの世も道具でしかない。

(それに政略結婚とは名ばかり……本当は捕虜でしかない)

 考え事をしている間に、互いの国境の緩衝地帯である荒野へと辿りついた。
 荒れた地には、互いの国から厳選された数名の要人達が控えている。

 これから、いくつかの儀式を経て、オルビスからエストへと引き渡しが行われるはずだったのだが――。


「へぇ、そちらの姫さんが、俺の花嫁になる女か?」


 突然、厳正なる儀式の最中に、艶があるが乱雑な印象を受ける青年の声が聴こえた。

 周囲の大臣たちがざわつく。
 
 驚いて顔を上げた私の眼前に現れたのは――。

(だれ? まさか?)

 ――藍色の短髪に、紫色の切れ長の瞳を持ち、日に焼けた肌の長身痩躯の青年。
 
 一見すると細みに見えるが、鍛え抜かれたことが分かる締まった身体に、エスト・グランテ王国の騎士団所属を意味する黒いコートを羽織った彼の正体は――。

「デュランダル様!! まだ神聖な儀式の最中でございます! いくら王弟のあなたとは言え許されは――」

 頭を何かで撃たれたかのような衝撃を受ける。

(そんな……この人が私の旦那様になる人?)

 白髪の神父の言うことを無視して、デュランダルと呼ばれた青年は、私に近づいてきた。
 私の顔を覆うケープを、彼がはぎとって捨てる。

「きゃっ!」

 衆目に顔が晒されてしまった。


「化粧はしてるが、まだガキじゃねぇか。兄貴も、俺に面倒ごと押し付けやがって」


 隣国の姫君である私に向かって蔑むような視線を送ってくる青年に、私は何も答えることができずに震え始める。
 突然、私の腕を彼の大きな手が掴んできた。

 同時に、彼の身体に引き寄せられる。


「一応名乗っておくが、俺がお前の旦那になるデュランダル・エスト・グランテだ」


(やはりこの男性が――)


 そう言うや否や、唇に柔らかい何かが押し付けられた。

「ん――」

 急に息が出来なくなって混乱してしまう。

(何なの?)

 必死に彼の身体を押しのけようとした。
 だが、彼の鍛え抜かれた身体は、私の力なんかではびくともしない。

 一度、唇が離れた後、今度は口の中に別のものが侵入してくる。
 口腔内の粘膜を這うものの正体が、デュランダル将軍の舌だと気づくのにしばらく時間を要した。

「んっ、あふっ、は、う……」

(夢に見てた、初めての口づけだったのに……)

 理想と現実の違いが悲しくて、涙で視界が滲んでくる。
 けれども、同時に全身にぞくぞくとした甘い痺れが起こった。

(私、いったい?)
 
 どのぐらい時間が経ったかは分からないが、彼の唇がやっと私の唇から離れる。

「は……あ……」


「ああ? ……もしかしなくても初めてだったか? まあ、でも悪くなかっただろうが? 儀式とかかったるいのが嫌いなんだよ。おい、誰か、花嫁を連れて帰るぞ」

 場が騒然とする中――私の身体は羞恥で動けなくなっていた。

 周囲はざわめくばかりで、私たち二人に誰も近づこうとしない。

「ちっ、相変わらず、俺におびえてばかりだな。エストには、まともに仕事のできるやつはいないのかよ」

 花嫁姿のままの私は、デュランダル将軍の肩に担がれてしまった。
 視界が反転し、ますます状況についていけない。
 隣国の姫である私を粗野に扱う将軍デュランダルに対して、恐れて口出しできるものがいなかった。

(この人……怖い……)

 彼の肩で震えていると、声を掛けられる。

「人質のお姫様、安心しろ。俺はお前みたいに震えてばかりの女に興味がない。そして、俺自体も女に不自由していない。俺があんたの元を訪れることはほとんどない」

「それはいったい、どういう?」

「本来の捕虜の役割だけ果たして、屋敷で自由に生きておけってことだよ。別に子どもも欲しくねぇしな……なんだ、政略結婚でも愛が育めるとか、そんな夢でも抱いてたのかよ? 可哀そうな、お飾りの花嫁さん」


(お飾りの花嫁……)


 彼の言う通り――。

 知らない青年かもしれないし、名目上の妻かもしれないが、物語のように徐々に恋をして愛をはぐくんでいけるかもしれないと、心のどこかで期待していた自分の理想は全て崩されてしまった。

「わ、わたし……」

 極度の緊張とショック――デュランダルの肩の上で、糸が切れたように私は気を失ってしまったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話

ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で 泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。 愛菜まな 初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。 悠貴ゆうき 愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...