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囚われの輝夜姫は、月夜に喘ぐ【後日談】

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 輝夜かぐや内裏だいりにある後宮へと東宮妃として迎えられ、与えられた殿舎に住まうことになった。
 養父母の屋敷とは大違いであり、とても清潔で陽当りの良い場所である。
 女御たちも蘇芳すおうの昔なじみの優しい人たちばかりが揃えられており、とても快適だった。

(まるで極楽浄土のようだわ……)

 黒漆の豪奢な櫛箱にそっと手を伸ばすと、中には唐草と鳥の文様が鋳込んである円形の鏡が出てきた。
自身の顔を映す。
 うっすらと白粉を施し、桃色白粉を頬に塗り、唇には紅を指で塗る。
 その後、蘇芳に貰った象牙の櫛で、長い黒髪を梳いた。

(蘇芳様は綺麗だと言ってくれるかしら?)

 心を弾ませながら夜を迎える。
 御簾みすも下げられると、室内は薄暗くなった。
 御帳台みちょうだいの中、夫・蘇芳の到来を待つ。
 普段ならば、もう少しだけ来訪するのが早いのだが……

(毎晩通ってきているから、今日はさすがに来ないのかもしれない)

 今をときめく東宮が毎晩通ってきてくれているだけでも素晴らしいことだ。
 あまり贅沢を言ってはいけない。今晩は早めに休んで、明日は早朝から、蘇芳に渡す直衣のうしでも繕ってしまおう。
 そんなことを考えていると――
 御帳台の向こう、花鳥の文様が描かれた壁代かべしろが揺れると、蘇芳が姿を現わした。

「待たせたな、輝夜」

「蘇芳様」

 今日の蘇芳は、二藍色に三重襷文様の描かれた直衣を纏っている。
 烏帽子を脱ぐと、さらりと濡れ羽色の髪が揺れた。畳の上に座る輝夜の近くに寄り添うように隣に座り込む。

「お前と会えない時間はまるで拷問のようだった」

「さようにございますか」

 しばらく蘇芳の朝廷での仕事ぶりを聞いた後、今度は輝夜が屋敷で不自由していないか尋ねられた。

「蘇芳様のおかげで何不自由のない生活が出来ております……本当にありがとうございます」

「いいや、俺としてもお前が屋敷で待ってくれていると思うと、仕事に精が出るよ」

 そうして、長く優美な指が、輝夜の漆黒の髪を何度も梳いてきた後、輝夜の顎を掴んだ。
 相手の方へと顔を上向かせられると、互いの視線が交じり合う。
 切れ長の漆黒の瞳には色香が孕んでおり、見つめられるだけで頭の芯がぼうっとなってしまう。
 ゆっくりと相手の顔が近づいてきたかと思えば、唇同士が触れ合った。
 触れ合うだけの口づけを何度か交わした後、舌が絡んできて深い口づけに移行する。

「あ……」

 そのまま押し倒されると、艶やかな黒髪が褥の上に広がった。

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