【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)

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囚われの輝夜姫は、月夜に喘ぐ

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 そうして彼は、たびたび人の目を盗んでは、私に会いにくるようになった。

 なかなか貴族の姫君のようには暮らせていない私に、宮中の流行や和歌の作法などを教えてくれる。

 桜の次期に出会った自分たちだったが、もう初夏が近づいてきていた。

 しとしとと雨が降る日のことだ。

「はい、どうぞお食べください」

 私は、夕食を食べそびれたという蘇芳に姫飯ひめいいを差し出した。

「俺が好きな、柔らかい飯じゃないか。輝夜は、俺のことをよく分かっているな」

 そう言って、磁器の椀を手に取ると、がつがつと箸で掻き込む。

「蘇芳様、鯛のお吸い物もございますよ」

「うまい、うまい」

 全てを食べつくした彼は、満足そうに椀と箸を置いた。
 粗野な喋り方をすることもあるが、どことなく彼の所作は貴族的で優雅だ。

 ふと、彼が自分の方をじっと見ていることに気づく。


「お前は、俺がどういう立場の人間かはたずねてこないな……やはり、警戒心が足りないような気がする。おかしな親に育てられたせいだろうか? まあ、そのおかげで、こうしてお前との縁を深めることができたわけだが……」

(おかしな親……)

「そ、そんなことは……」

 育ての親のことを思うと、なんどなく胸の奥がもやもやとした。

 一応、寝食には困っていないのだから、彼らに感謝すべきなのだろう。


「お前の相手を悪く言わないところは美徳だが……なあ、ところで――」

「はい、なんでしょう?」

「俺はお前のことを気に入っている」

 髪と同じ濡羽色の綺麗な瞳でそう言われ、胸がきゅっと苦しくなる。

「あの……」

「輝夜、お前の方はどうだ?」

「私は……」

 いつの間にか、近づいてきていた蘇芳が、出会った時のように私の顎を掴んだ。

「好きだ」

 真剣な声音でそう言われ、心の臓が壊れてしまいそうだった。


「私も……です」


 流されたわけではない。

 日々の交流の中で、厳しいながらに心配して助言をしてくる、そんな彼の人柄のよさに、私も惹かれていったのだ。

 そうして、私たちは、初めての口づけを交わした。



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