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嘆きの令嬢は、銀嶺の騎士に甘く愛される
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しおりを挟む後日、帝都ではクーデターが起こったという話を耳にした。
周囲の反感を買っていたバーン――イグニス様は、弟のグラース様に殺されてしまったらしい。その死に様は、到底わたしの耳には出来ないとフェルゼン様には教えられた。
(リリーは無事かしら?)
親友を心配していたわたしの元に、まさかのリリー本人が姿を現した。
「ガーネット。フェルゼン様と貴方の二人を迎えに来たのよ」
「え? フェルゼン――様?」
彼女は憑き物が落ちたように、本来の屈託のない笑みでわたしを見つめてくる。
彼女のそばには、以前見かけた、金色の髪に水色の瞳をした美しい青年が立っていた。
彼はリリーの黒髪にちゅっと口づける。
「グラース様、人前ではおやめください。皇帝らしい振る舞いをなさって」
「ああ、つい癖で」
(何があったか、リリーに後から聞かないと……それに、わたしも彼女に謝らなきゃ……)
そうしてグラース様が、わたしの背後に現れたフェルゼン様に笑顔を向けた。
「探しましたよ、叔父上」
わたしは目を白黒させる。
「え? ええ!?」
フェルゼンはため息をついた。
(確かに、二人とも金色の髪に青い瞳……確か、フェルゼン・ロクス様と言えば、騎士を束ねていた若き将軍)
「今、帝国には先のクーデターで人員が不足しています。以前から相談していましたが、貴方にはこの付近の統治をおまかせしたい」
フェルゼンはまたため息をついた後、そっとわたしの隣に立った。
「せっかく、君と穏やかに過ごしていたのに。これから忙しくなるけど、大丈夫かな?」
彼に問われたわたしは、元気よく返事をしたのだった。
※※※
メディウス・ロクス帝国北部領の初代統治者フェルゼン・ロクス。彼は一時期歴史から姿を消していたが、初代皇帝グラース・メディウス・ロクスの時代に、また表舞台に立つようになる。
フェルゼンは妻とともに、統治している民に、直接寄り添う人物だったとして、後の書物には書かれている。
フェルゼンの妻の名には諸説あるが、皇后リリーとの手紙のやりとりが残っており、とても友好な間柄だったのではないかと、後の研究者たちの通説になっている。
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