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凍てつく百合の令嬢は、婚約者の弟に狂おしく愛される

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 気づいた時には、彼に対して声をあげて抗議していた。
 勝手に涙がこぼれていくのを感じる。


「イグニス様を殺したあなたを許さないわ! あなたへの怒りだけが、私を生きながらえさせている!」


 目の前にいるグラース様の端正な顔が歪んだ。
 そうして、彼の唇がゆるりと弧を描く。
 座る私の頬に、彼の手が伸びてきた。


「だったら、もっと僕のことを憎んでほしい」

 
 彼の顔を見上げる。
 暗い水底のような蒼い瞳が、私を睥睨していた。
 彼はぽつりとつぶやく。

「あんな男のために、涙を流す必要なんてないのに……」

(あんな、男?)

 彼はそういうと、ほの暗い瞳のまま、私の左頬に唇を寄せる。
 瞳からあふれる涙を、唇ですくいとっていった後、離れた。

「もっと僕のことを嫌いになって……」

 突然、私の唇はグラース様の唇に覆われた。
 そのまま、柔らかい彼の舌が私の唇と歯を上下に割り入る。互いの舌の粘膜同士が絡み合い、全身の皮膚の表面にびりびりとした感覚が走る。

「んっうっ……」

 彼の舌が口腔粘膜をゆっくりとなぞり、これまでに感じたことのない痺れを覚える。

(なに?)

 こんな状況なのに、私は自分の身体が自分のものだったということを、一か月ぶりに強く体感していた。

(体に感覚が……)

 慌てて、グラース様の身体を両手で押しのけようとする。だが、彼の両手で手首をつかまれてしまい、しばらく彼に唇を貪られるがままになった。
 吐息と共に、彼の唇が離れる。

「イグニス兄さまには、こんなことをされませんでした?」

「まだ、彼とは結婚式の最中で……あなたが入ってきて……!」

 かあっとなった私は、グラース様に向かって叫んでいた。

(イグニス様とは、子どもの頃から婚約していたけれど、真面目な方だったから、「結婚までは何もしないでおくよ」って……)

 目の前にいるグラース様は、再度私に顔を近づけてきた。

「ねえ、だったら……リリー義姉様の初めては、イグニス兄さまではなくて僕のものだね」

「グラース様! 何をおっしゃって!?」

 私は彼に両手首を抑えられたまま、ベッドに押し倒されてしまった。
 彼の両手に、私の両の掌を開かれたかと思うと、指を絡まされる。
 彼は、私の首筋に唇を押し当て、音を立てて吸い始める。

「あっ……やめてっ……くださいっ! 私はっ、死者の世界で……イグニス様に、純潔を捧げ……ゃあっ……」
 
「もうイグニス兄さんはこの世にいないし、貴女が彼の後を追うことも僕が許さない。それにあんな男のために、あなたがわざわざ貞操を護る必要はない」

 グラース様のほの暗い蒼い瞳が、私の瞳を射るように見つめている。
 彼の両脚が、私の両太腿を挟み込むようにしているため、逃げることも叶わない。

「ぁ……私は……」

「勝手に死ぬのは絶対に許さない。ずっと、貴女にはこの部屋で生きながらえてもらう」


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