上 下
37 / 48

11-4

しおりを挟む



 しばらく夜道を、どちらも喋らずに静かに歩いた。

 空には月がかかりはじめている。

 墓地と教会を繋ぐ林を抜ける頃、脇にある薔薇園へと立ち寄る。

 もう夜なので、二人きりしかいない。

 一度口を閉ざした後、彼がまた開いた。

「――昔、俺に婚約者が……マーガレットがいたことを黙ったままでいたことを……彼女のことを忘れていないのに、君に求婚して――マーガレットにも君にも、どちらに対しても失礼な態度をとってしまった……」

 私は首を横に振る。

「結婚も、最初はお父様同士の話からはじまったことですし……それに、マーガレット様はシャーロック様の大切な方です。妻になったばかりの私に無理に伝えるべきことでもありません」

 彼は息を呑んだ。

「――だけど、自分によく似た女性が映る写真を見て、俺のことを嫌になったりしたんじゃ……」

 また私は首を横に振った。

「確かに姿かたちは似ていましたが、身に纏う雰囲気などは、まるで別人です。推測ですが、きっと性格だって違うはず……元々シャーロック様はお優しい方ですが、特に優しくなったのは、私がドレスを見つけて以降です」

 シャーロック様がぴくりと反応する。

「もし顔が同じだから娶ったという理由なら、もっと早くに態度を変えても良かったし、別にドレスを見つけてもそれまでと同じ振る舞いで良かったはずですし……」

 私は続けた。

「結婚以降は特に、シャーロック様は私に歩み寄ろうとしてくださいました――彼女と私は別人だと分かっているからこそだと思っています」

「アメリア……」

「だから、別に私はマーガレット様に似ていることを気にしていないし、シャーロック様が今も彼女のことを忘れることが出来ないのだとしても、私は一向に構いません」

 すると、彼がぽつぽつと返しはじめた。

「俺がマーガレットのことを忘れることが出来なくても良いのは――契約結婚だし、俺のことなんかどうでも良い存在だから――?」

 シャーロック様の瞳は精細さを欠いている。

「違います……」

 すると、彼がきゅっと唇を噛み締める。

「じゃあ、なぜなんだ……? これまで俺にマーガレットがいたことを知っていた令嬢たちは皆、『貴方から彼女を忘れさせてみせる』と言ってきた……だけど、そうじゃないのは、アメリアが俺に関心がないからじゃないのか……」

 くしゃっと彼は顔を歪ませた。

「他の女性がどうかは知りませんが、契約結婚で愛がないからだとか、シャーロック様に関心がないからではありません」

 彼をまっすぐに見据える。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂
恋愛
ある国の王子であり、王国騎士団長であり、婚約者でもあるガロン・モンタギューといつものように業務的な会食をしていた。 普段は絶対口を開かないがある日意を決して話してみると 「話しかけてくるな、お前がどこで何をしてようが俺には関係無いし興味も湧かない。」 と告げられた。 もういい!婚約破棄でも何でも好きにして!と思っていると急に記憶喪失した婚約者が溺愛してきて…? 「俺が君を一生をかけて愛し、守り抜く。」 「いやいや、大丈夫ですので。」 「エリーゼの話はとても面白いな。」 「興味無いって仰ってたじゃないですか。もう私話したくないですよ。」 「エリーゼ、どうして君はそんなに美しいんだ?」 「多分ガロン様の目が悪くなったのではないですか?あそこにいるメイドの方が美しいと思いますよ?」 この物語は記憶喪失になり公爵令嬢を溺愛し始めた冷酷王子と齢18にして異世界転生した女の子のドタバタラブコメディである。 ※直接的な性描写はありませんが、匂わす描写が出てくる可能性があります。 ※誤字脱字等あります。 ※虐めや流血描写があります。 ※ご都合主義です。 ハッピーエンド予定。

騎士団長!!参る!!

cyaru
恋愛
ポップ王国の第二騎士団。騎士団長を拝命したフェリックス。 見た目の厳つい侯爵家のご当主様。縁談は申し込んだら即破談。気が付けばもうすぐ28歳。 この度見かねた国王陛下の計らいで王命による結婚をする事になりました。 娼婦すら恐る恐る相手をするような強面男のフェリックス。 恐がらせるのは可哀相だと白い結婚で離縁をしてあげようと思います。 ですが、結婚式の誓いのキスでそっとヴェールをあげた瞬間、フェリックスは・・・。 ※作者からのお願い。 決して電車内、待ち合わせ場所など人のいる場所で読まないようにお願いいたします。思わず吹き出す、肩が震える、声を押さえるのが難しいなどの症状が出る可能性があります。 ※至って真面目に書いて投稿しております。ご了承ください(何を?) ※蜂蜜に加糖練乳を混ぜた話です。(タグでお察しください) ※エッチぃ表現、描写あります。R15にしていますがR18に切り替える可能性あります。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※8月29日完結します(予約投稿済)おバカな夫婦。最後は笑って頂けると嬉しいです

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

処理中です...