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9-2 シャーロックside
しおりを挟む(そんなに長い時間じゃなかった……)
アメリアにマーガレットの話をしていなかったことの弁明をしなければならない。
逸る気持ちを抑えながら、急ぎ足で玄関と庭を抜ける。
ちょうど一台の馬車が停まっていた。
「アメ――」
声をかけようとした時――。
「アメリア、足元に気をつけて」
――一人の青年の声が聴こえた。
黒髪に青い瞳をした男性が馬車から先に降りてくる。
――サー・エドワード・ヴィンセント。
妻よりおそらく数歳下か同い年位の幼馴染だ。
「エド、一人で降りれるから結構よ」
「いいや、君に何かあったら心配だよ」
馬車の中から降りてくるアメリア。
(アメリアはミス・ヴィンセントに会いに行ったんじゃ……?)
少し瞼の腫れた彼女は、幼馴染の青年に向かって満面の笑顔を浮かべる。
「エドは、昔から心配性ね」
「そうかな?」
サー・ヴィンセントも嬉しそうに微笑みかえした。
(アメリア……よく笑う娘だけど――)
昨日の落ち込んだ彼女の印象が強いせいもあるからだろうか、彼女の笑顔がひどく眩しく感じた。
――若い二人が微笑み合う姿を見て、ひどい後悔が胸を襲ってきた。
(父から誰も特定の相手はいない女性だと勧められたけれど――)
探偵をやとったところで、彼女の胸の内まではかり知ることなど出来ない。
(アメリアとサー・ヴィンセント……)
それに――自分にも身に覚えがある。
あの青年は妻に恋していると、一目見て分かった。
だけど、妻の方は違うと漠然と思っていたけれど――。
(アメリア……)
アメリアは自分に関心がないと思いつつも、どこか自分のことを人としては慕ってくれているのではないかと思っていた。
社交界で名を馳せるような自分で、女性からもちやほやされることが多かったし、自惚れていたのかもしれない。
(明るいし優しいから、彼女の態度を勘違いしていた……そうだ、アメリアは誰に対しても優しくて……)
「あ、シャーロック様、ごめんなさい、突然屋敷を抜け出してしまって――!」
妻がこちらに向かってきた。
そうして、少し俯きながら、話しかけてくる。
「あの……後からシャーロック様にお伝えしたいことがあります」
反応が少しだけ遅れてしまった。
妻が笑顔を見せて来なかったことに一抹の不安を感じてしまう。
「……ああ、分かったよ」
そうして、彼女は幼馴染の方を振り向くと、また笑顔を見せた。
「じゃあ、エド、また! ジェシカにもよろしくね!」
「うん、分かった」
しばらく手を振っていた彼女だったが、使用人に呼ばれて屋敷に先に戻っていった。
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