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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

28-1 蒼汰を救ったもの

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 蒼汰は病室からいなくなった美織を追いかけて海岸線を駆けていた。
 風がどんどん強くなっており、木々が激しく揺れ動いていた。
 蒼汰に会うために美織が海に向かっていると、なぜかそんな確証めいたものを抱いていたのだ。

「なんでなんだよ、せっかく俺が色んなことを諦めようとしたっていうのに……」

 ちょうど風が強くなってきて、雨がぽつぽつと降りはじめた。
 こんな時に外に出るなんて、ただでさえ死期が迫っている彼女の体力を奪うことにしかならない。

「どうしてなんだよ、ちゃんと病室で寝ていろよ」

 蒼汰は霊魂のはずなのに息をするのも苦しいぐらいの暴風だ。
 防波堤には荒れ狂う海がぶち当たっては引いていく。
 コンクリートの壁に巨石でもぶち当たっているかのような轟音だ。
 停泊している船が、まるで湯船に浮かんだ玩具のように激しく上下している。
 まるであの日の再現のようで、蒼汰は生きた心地がしなかった。

「って、もう死んでるんだった」

 向かい風と戦いながら前方の進み続けたら、いつも彼女と約束をしていた浜辺へと辿り着いた。
 蒼汰はキョロキョロと周囲を見渡したが、台風が来ているからだろう、周囲に人の姿はなかった。
 美織が自分に会いに来ているだとか、さすがに自惚れだったのだろうか?

「くそっ、ここじゃないんなら、別のところを探すしかないか」

 雨に打たれていると、だんだん逆上せていた頭が冷却されてきた。
 もしかすると、ちゃんと主治医に相談して外出許可を貰った上で家に忘れ物を取りに帰っているだとか、そんなオチかもしれないのだから。

「引き返すか」

 気づけばすっかり暗くなってきていた。
 風の吹き方も尋常ではない。立っているのもやっとなぐらいだ。
 そうして、蒼汰が踵を返そうとした、その時――

「君、どうして……?」

 なんと背後に息を切らしている美織の姿があったのだ。

「美織……!」

 もしかすると、美織は蒼汰とは別のルートでここに向かってきたのかもしれない。
 足の速い蒼汰の方が美織よりも早くに到着してしまったというオチなのだろう。

「何をやってるんだよ! 台風の時の海が危ないって、お前が一番分かってるはずだろうが!」

 思わず怒鳴りつけてしまっていた。
 美織の瞳がみるみる潤んでいく。

「だって、だって……」

 泣きじゃくり始めた彼女のことを抱きしめたい衝動に駆られたが、彼女に触れれば命を奪ってしまうかもしれないと思って出来なかった。
 咽び泣く美織が続ける。

「今日、五年前とそっくりだから、君が今日こそ、消えちゃう……そう思って……せっかく会えたのに、もう会えなくなるって……最後かもしれないからって……」

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