上 下
89 / 122
第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

25-2

しおりを挟む



 台風の前兆だろう、外では雨がざあざあと降り始めていた。

(俺が死んだ日も、こんな日だったな)

 まだ朧げなところもあるが、次第に記憶が輪郭を帯びつつあった。
 灰色の分厚い雲が空を覆って、少しだけ生ぬるい風が吹いていて、時々強い風へと変わる。
 しかも、ちょうど台風の号数も同じだったし、なんだか数奇な運命のようなものを感じた。

「待っていろ、美織!」

 そうして、駆け出した蒼汰だったが、ぐにゃり、外の風景が歪んで見える。

「……っ……」

 前後不覚になって立っていられないような、そんな感覚に陥ってしまう。

「なんだよ、めちゃめちゃ透けてんじゃんかよ」

 自身の指先を見ると、透けているというよりも、もはや指先が消えてしまっていた。
 蒼汰は漠然とだが……

 ……もう自分は今日この世から消える。

 そんな思いが芽生えはじめる。

「なんだろうな、なんとなくだがな」

 身体がなんとなく自分の自由には動かないような錯覚に陥る。
 消えるのも近い。
 その考えが、徐々に確信のようなものへと変わりつつあった。
 神社から降りた付近の駐輪場に停めていた自転車に乗り込むと、海岸線を駆け抜ける。
 病院は山の頂上にある。
 そんなに雨は降っていないが風がとにかく強い。
 坂道を一気に駆け上るが、以前通った時のように息が上がったりはしていなかった。
 そうして、病院の駐輪場に自転車を置くと、正門へ向かって駆ける。
 駐車ロータリーを抜け、久しぶりに来た正面玄関の自動ドアをくぐり抜けて中へと入る。

「さて、問題は、どうやって美織の部屋を探すかだな」

 残念ながら、受付事務の女性にも当然蒼汰の姿は見ていなかった。

「カルテの不正閲覧でもするしかないか」

 周囲に見えていないのだから、それが手っ取り早いかもしれない。
 覚悟を決めてカウンターの中へと乗り込もうとしたところ、ちょうど、自動扉から昼空学が姿を現わした。
 見るだけでも嫉妬で頭がおかしくなってしまいそうだが、美織の病室を知るうえでは、この上なく良い機会だ。
 蒼汰は昼空学から少し離れた位置に立つ。

「夜海美織は、そこにいるんですね、分かりました。教えてくださって、ありがとうございます」

 学は受付事務に話しかけた後、外来棟を抜けて病棟エレベーターへと向かう。
 そんな彼の後ろを蒼汰は着いて歩いているが、もちろん相手が気づくことはない。一緒のエレベーターに乗って、目的の七階へと登る。
 エレベーターの中で、学の横顔を眺めた。凛とした顔立ち、特に粗もない、いわゆる美少年だ。

 ……蒼汰以上に美織のことを知っている男。


しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...