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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

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「美織? ああ、あの蒼汰の追っかけの可愛い女の子だろう? 小学生の時にガールスカウトか何かで一緒になって友達になったとかいう」

「そうそう」

 目を爛々とさせたほのかに対して、恭平も顎に手を当てうんうんと頷いていた。

「美織ちゃん、高校生になって、えらく綺麗になってたな」

 ほのかは美織のことを褒める恭平のことを一瞬だけ睨んだ後、深呼吸をして本題へと移った。

「学くんに聞いたんだけど、美織がどうもお兄ちゃんが浜辺にいるって話してるらしくて」

「蒼汰が?」

 恭平がほのかへと視線を移した。
 彼女はと言えば伏し目がちになりながら、麦茶の入ったグラスのストローを手にグルグルと中をかき回していた。

「うん、そうなんだ。お兄ちゃんが浜辺にいるはずないのにね」

「ああ、蒼汰がいるはずはないからな」

 蒼汰の妹と親友の二人の姿からは哀愁が感じられた。
 二人のそんな姿を見て、蒼汰の胸がざわざわすると同時にぎゅっと苦しくなった。
 ほのかが口を開くと同時にカランと氷が鳴った。

「この間また入院したけど、美織の病状、あんまり良くないのかな……」

 恭平は黙ってほのかの話を聞いている。

「脳外科の権威とやらに手術してもらえるって話じゃなかったのか?」

「そうだけど……そもそも手術自体、成功する確率がそんなに高くないし、ある程度体力が残ってないと出来ないらしいんだけど……ちゃんと手術まで生きられるのかな、昨日会ったら顔色真っ白でさ」

 ほのかの瞳に涙が浮かぶ。

「美織、海見ながら『ほのか、ごめんね』って。そして……」

 ほのかの声が上ずる。

「『あなたのお兄ちゃんを不幸にした私が、手術受けても良いのかな』って呟いてきて……私は」

 泣きじゃくるほのかの傍に恭平が寄り添った。

(美織……)

 蒼汰は拳をぎゅっと握る。

(俺が傍にいるから病状が悪いんじゃないのか?)

 いいや、おそらく蒼汰が離れたとしても美織の病魔の進行を食い止めることが出来ていないのだろう。
 ほのかは恭平に向かって語りかける。

「美織さ、夢見がちなところがあるんだけどね、お兄ちゃんに貰ったとかいう『流れ星の欠片』とかいうのを後生大事に持ってたんだよ」

「蒼汰に貰った?」

「うん、そう」

 ほのかが微笑んだ。

(俺が美織に渡したプレゼント?)

 確かに以前、神社で「流れ星の欠片」がどうとか美織が話していた気がする。
 ほのかが遠い目をしながら続ける。

「ずっと肌身離さず持っていたみたいだけど、お兄ちゃんがあんなことになってから、願掛け代わりに神社のクスノキの下に埋めたみたいなんだよね」

「へえ、蒼汰がお前以外の誰かにプレゼントするところが想像つかないな」

「でしょう? それでね、美織にお兄ちゃんからのプレゼントとやらを渡して元気づけられたらなって思ったんだけど……見つからなかったんだ」

 切なげな表情を浮かべて話すほのかを見ながら、恭平がふっと微笑んだ。

「お前も割と夢見がちなんだな」

「何よもう、失礼しちゃうんだから!」

 再び二人が言い合いを始める。

(俺がほのかに渡した『流れ星の欠片』)


 ふと、母との懐かしい記憶が蒼汰の中に戻ってくる。


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