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第5章 荒れ狂う海、消えゆく君を追いかける

26-1 美織の過去(前編)美織side

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 病院を抜け出した美織は、濡れたコンクリートの上を、いつも履いているミュールで駆け下りていた。
 もう少しで海岸線にある車道へと出る。

「はあ、はあ……」

 ちょっと走っただけなのに、すぐに息が切れてしまった。
 ふくらはぎの筋肉と足の裏が痛い。
 小さい頃から病気続きで体力がないのだ。
 台風の切れ間から西日が差していて、ちょうど今は晴れていた。
 少しだけ強い風が吹いてきて黒髪が宙に舞い踊る。
 美織は髪を整えながら額の汗を拭った。

「ああ、私もあの人みたいに元気だったら良かったのにな」

 あの人。
 初めて会った時から大好きだったあの人。

「同情なんかじゃない、罪悪感だから近づいたんじゃない、私は、ずっと……あの人のことが……」

 彼の名前は、朝風蒼汰。
 本当は浜辺で話しかける前から、ずっと知っていた。
 だって、子どもの頃からの美織のヒーローなのだから。

「絶対に相手が私のことを覚えていないの、分かっていたけどね」

 ふと、美織は蒼汰との初めての出会いを思い出した。

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