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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる
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しおりを挟む美織から続きを溜めてこられたので、蒼汰は先を促すことにする。
「なんだ?」
すると、美織が続きを話し始めた。
「ものすごく有名な先生がね、私の手術の担当をしてくれるようになったんだ。最近新しい手術の方法が出来て全国に普及しはじめたんだって。だから、もしかしたら今よりもっと長く生きられるかもしれないんだ。まだ手術件数自体が少ないから、絶対に成功するかは分からないんだけどね。先生たちから見てもまだ未知の領域みたい」
蒼汰は目を見開いた。
図書館に置いてある情報は古い。医学は日々進歩している。昔だったら死んでいた病気でも、今なら延命することだってある。
美織の病気が治る可能性が少しでも上がるのだったら、それはすごく幸せなことだ。
「そうか、お前の病気が治る可能性があるんだったら、俺は嬉しいよ」
蒼汰は心の奥底から笑みが零れた。
美織からも笑顔が溢れる。
(どうか手術がうまくいって、こいつが少しでも長く生きて、星を観て過ごしてほしい)
それならば、尚のこと未来ある彼女の大切な時間や命を奪うことが出来ない。
先ほども蒼汰のそばに来たから美織はふらついたのかもしれない。
これ以上は一緒にいてはいけない。
もう花火は中間地点まで来ている。
蒼汰の中で覚悟が決まった。
けれど、心の奥底では、まだ何かが戦っている。
(どうか……)
どうかまだ炎よ消えないでくれと願ってしまう。
まだ終わりたくないと本能が告げてきている。
離れなければならないのに……
なのに……
「手術を受ける気になったのはね、君のおかげなんだ」
美織がポツポツと続きを呟きはじめた。
「俺の……?」
「うん。君ともっと星を観たい。また来年の夏も一緒に花火大会に行きたい。こうやって花火をして過ごしたい。そう思ったんだ」
美織にそう思ってもらえたことは、とても嬉しいことだ。
だけど、蒼汰には何も答えることが出来なかった。
……美織も気づいているはずなのだ。
本当は蒼汰はここにいてはいけない人間なのだということに。
美織は生きていて、蒼汰は死んでしまっている。
いくら一緒にいたいと言っても、現実に彼女の命を奪ってしまっているだけなのだ。
死者と生者は一緒に過ごし続けることは出来ない。
生者は生者たちと一緒にその人生を歩み続けなければならないのだから。
「あ……」
美織が声を上げた。
同時に最後の線香花火がぽとりと落ちる。
ちょうどロウソクの炎も風に揺らいで消えた。
周辺が夜の帳に包まれる。
優しく打ち寄せる波の音だけが二人のことを包み込んだ。
夏が見せた奇跡の時間は――もう終焉を迎えるのだ。
花火の光に慣れてしまっていたせいもあるのだろう。
一気に暗闇に包まれたような錯覚に陥る。
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