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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる
21-1 線香花火
しおりを挟む昨晩、あんなことがあったばかりだ。
美織が来るかどうかは分からなかったが、蒼汰はいつものように浜辺で過ごしていた。
天体望遠鏡のそばで立って夜空を眺める。
雲一つない快晴で、夜空では星々が綺麗に輝いていた。
「今日はさすがに来ないかもな」
蒼汰は図書館で自分に関してある一定の真実に辿り着いてしまった。
もしかすると、自分のそばで過ごしていることで、美織の死期を早めているかもしれないという事実が胸に重くのしかかってくる。
とはいえ、紛れもない事実を目の当たりにしたのだが、昨晩ショックを受けすぎたせいもあってか、真実が明るみになって幾分か気分はマシだった。
それから半日かけて考え抜いたことがある。
(今の俺はあいつにとって……)
蒼汰は自身の拳に視線を戻す。
決意を固めるべく、きゅっと拳を握りしめた。
その時。
「良かった、いたね!!」
昨晩の出来事など何もなかったかのように、美織が姿を現わした。
今日は頭に簿麦わら帽子は被っていないが、いつもの白いワンピーススタイルだ。
ちょっとやらかしちゃったと言わんばかりに舌をペロッと出して笑いかけてくる。
「ごめんね、待ったかな? さあ、良かったら、今日は空に瞬く天の川を一緒に観ようよ!」
爛々とした笑顔をこちらに向けてくる美織。
だけど、どことなくいつも以上に顔色が青白い気がした。
「あ……あれ?」
しかも、何もない場所で突然ぐらついてしまう。
「美織」
蒼汰は咄嗟に彼女の身体を支えると同時に、ぎゅっと眉根を寄せた。
(やっぱり。こいつはかなり無理をして俺に会いに来ている)
そんな風に確信するには十分なほどに、美織の様子はおかしかった。
蒼汰は一度強く瞼を閉じる。
……このまま触れるだけでも危ないかもしれない。
彼女がしっかりと立つことが出来るのをしばらく待ってから、そっとそばを離れた。
「あ……」
自分から離れる蒼汰を見て、美織の瞳が星の瞬きのように不安げに揺れ動く。同時に、彼女の手が空を切った。
しばらくシンとした空気が流れたが、それを破ったのは彼女だった。
「ねえ、君はさ、昨日の学くんと私との会話を聞いて、どう思った?」
こちらを伺うような彼女の視線を感じて、彼はそっぽを向く。
「あの抽象的なやりとりじゃあ、何にも分かんなかったな」
蒼汰が素知らぬフリをして返すと、美織の表情が一気に明るくなった。
「そっか、そうだよね! わかんなかったよね!」
「ああ、そうだな」
嘘だ。
本当はあの話を聞いたことで記憶が蘇ったし、図書館で調べて、どうやら自分が死んでしまったことを知った。
けれども、嬉しそうな美織の様子を見ていると、本当のことを言いづらかったのだ。
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