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第4章 夏の終わり、消えゆく君が別れを告げる

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 水泳界から姿を消して引きこもっていた。
 そんな人物がこの島に何人もいるはずもない。
 蒼汰は一つの事実に行きついた。

(だとすれば、自惚れでもなんでもなく、美織の憧れの男というのは俺なのか?)

 美織は以前から自分のことを知ってくれていたのだ。
 そう思うと、蒼汰の胸は不安でいっぱいだったが、嬉しさが塗り替えてくれるようだ。
 だが、どうしても違和感を拭えない。
 先ほどから頭の中で警鐘のようなものが鳴りやんではくれないのだ。
 すると、学が続ける。

「ああ、そうかそういうことか。僕と付き合えないのは、あの事件のことを気にしているからなのかい? そうなんだろう、美織?」

「違う……それ以上、色々、言わないで」

 明らかに怯えた様子の美織に向かって、学が畳みかけるように続けた。

「あの事件は不幸な事故だったんだ。小学生だったんだし、負い目を感じる必要はない。あの人は、君が殺したわけじゃない。だから、君はもっと幸せになって良い。わざわざお前がそいつのために自分の幸せを我慢することはないんだ!」

 突然、思いがけない話となったために、蒼汰は目を見開いた。

 事件……?
 美織が殺した……?

 どういうことなのか分からないが、目の前の学は蒼汰が知らない美織の過去を知っているのだ。
 蒼汰の背にしがみついている美織は、カタカタと震えていた。

(どういうことだ……?)
 
 蒼汰は情報の整理が出来ない。
 気になる話題だったが、ここで学を辞めさせた方が良いかもしれない。
 そうでないと美織の繊細な心が砕けて散ってしまいかねない。
 そんな風に思った蒼汰は学を睨みつける。

「おい、お前、やめろよ」

「なんだ?」

 蒼汰が学の手首を掴もうとしたが、さっと払われてしまった。

「おい、昼空とかいうやつ、聞いてるのかよ!?」

 すると――
 学が流麗な眉を顰める。そうして、吐き捨てるように言い放った。

「今の、誰かに触れられたような気がしたが、なんなんだ……?」

 相手の反応を聞いて、蒼汰の全身が総毛だった。
 まるで蒼汰のことを透明人間か何かだと思っているかのような反応だ。

(なんなんだ、こいつは……?)

 人として認識されていないような感覚に陥ってしまい、怒りよりも恐怖の方が背筋を這いあがってくる。震えている美織以上に、指先が震えはじめ、感覚がなくなっていくようだ。
 ドクンドクンドクンドクン。

 先ほどから感じている違和感の正体。

(なんだ、俺は……)

 だんだん、蒼汰の自他が曖昧になっていくようだ。
 背後を振り返るまでもなく、美織の震えは止まらなかった。
 学は眉根を寄せながら彼女に問いかける。

「美織、あの台風の事件の時以来、海に来ることなんてなかったのに、どうして……?」

 台風が来ている時の海は時化る。事件の時、美織は台風なのに海に近づいたというのだろうか?
 ざわり。
 蒼汰の胸中に黒い靄のようなものが生まれると同時に、頭の中の白い靄のようなものが、一瞬だけ晴れたような感覚が陥る。そうして、彼の中で何かが閃いた。

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