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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする

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 二人して神社の境内を急いで駆け抜けたけれど、神社発の最終バスを逃してしまった。
そのため、蒼汰は自転車を押しながら美織と海岸線を歩いて帰っていた。
 帰り道、なんとなく気恥ずかしさもあって最初は言葉数が少なかったが、あと数百メートルで美織の家に着くという頃、彼女がポツポツと口を開いた。

「実はね、入院が近くて、明日からは検査や準備で忙しいんだ。だから、明日から三日間の部活動は中止だよ」

「ああ、そうなのか。まあ、ちょうど、盆だしな」
 
 蒼汰は少しだけ寂しかったけれど、美織の身体のことが最優先事項だ。

「うん、そういえば、そろそろお盆なんだけど」

 彼女が彼のことを上目遣いで見上げてくる。

「私が色々準備している間に、どこかに行ったりしないよね?」

 蒼汰は眉を顰めた。

「は? 俺が? どこに行くんだよ? 親父はしばらく転勤ないらしいし、急に引っ越したりはあり得ねえな」

 すると、美織が目をパチパチさせると、うんうんと一人で何度か頷いた後、巾着についていた根付をそっと取り外した。

「だったら願掛けの石みたいになくなったら嫌だからさ、君にこれ、渡しておくね」

 美織が蒼汰の掌の中に根付を渡してくる。

「なんだよ、これ、いったいどうしろっていうんだよ?」

「もう、風情がないな。願掛けの石の代わりって言ったでしょう? お守りだよ。次会ったら返してほしい」

「お守り? 普通は逆だろう? お前が入院するんだしさ。なんで、そんなものを俺に渡してくるんだよ」

 すると、きゅっと美織が唇を引き結んだ。
 機嫌を損ねてしまっただろうか?
 蒼汰はどうしてだか美織の反応に一喜一憂してしまう自分に気付いた。
 とりあえずぶっきらぼうに返事をする。

「ああ、よく分かんねえけど、分かったよ」

「そう、良かった」

 明らかに安堵した美織の姿を見て、蒼汰も心の中で胸を撫でおろす。
 彼女にもらった根付をポケットに仕舞おうとしている際に、ふと閃いた。

「そうだ、じゃあ、俺からはこれを貸しておくわ。両掌を出してくれ」

 シャラリ。
 蒼汰は左手首に装着していた腕時計を外すと、彼女の掌の上に置いた。

「俺からはお前にこれを預けておくわ。次会った時に返せよ」

「え? いいの? 腕時計だよ?」

「ああ、授業の時はスマホを見るなって言われていたから役に立っていたけど、家にいる間はスマホを見りゃあ良いからな」

 すると、美織が腕時計のベルトを掴んで目の前にかざすと、うっとりとした表情を浮かべる。

「ありがとう。じゃあ、これが私のお守りだね」

 そうして、彼女は何げなく自分の手首に腕時計を巻きはじめた。

「ベルト、ぶかぶかで大きい」

 蒼汰は自分の腕時計を嵌める美織の姿を見て、なぜか羞恥が走る。

「なんだ……」

 そんな彼の顔を彼女が覗き込む。

「んん? どうしたのかな? 顔が真っ赤だよ?」

「いいや、別に、なんでもねえよ」

 そんなやりとりをしていたら、彼女の家の玄関口に辿りついた。
 自転車のタイヤが少しだけ動いた後に停まった。

「それじゃあ、またね」

「ああ」

 そうして、きょろきょろと近所の人がいないか確認してから、電信柱の陰に隠れてキスをしてから別れた。
 彼女を家まで送り届けた後、蒼汰は自転車でやけに軽快な走りを見せたのだった。
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