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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする
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しおりを挟む蒼汰は結局同じような返答をしてしまった。
少しだけ自己嫌悪に陥る。
悪気があって今のような返答しかしないわけじゃあない。
こんな風に女性に凭れ掛かられるような経験に乏しいので、どういう態度をとったら良いかわからないのだ。
じっとこちらを見上げていた美織だったが、何かを察したのか、ふうっと息を吐いた。
「まあ、いっか」
そうして、蒼汰の肩にもたれたままの美織が言葉を紡ぐ。
「私ね、花火と言ったら、病室で眺めてばっかりだったんだよ」
思いがけず、過去の彼女の話がはじまったため、蒼汰の筋が少しだけ強張った。
美織がポツポツと続ける。
「だから、こうやって花火を誰かと神社で見たのは初めてなんだ」
初めて。
そんな風に言われると、彼女の初めての存在になれたようで、蒼汰の気持ちは高揚していく。鼓動が高鳴っているのに、今日こそ気づかれてしまいそうで、落ち着かない。
「そうだ、花火と話は変わるけど」
「なんだ?」
「君の心臓の音、私のそれとは違って、逞しくって……聴くの、結構好きかもしれない」
「な……!」
蒼汰は赤面してしまった。
つまるところ、これまでずっと美織に心臓が早くなっているのは気づかれていたということなのか。
「お、おまえ……」
「わあ、また速くなったよ、面白いな」
美織は蒼汰の肩先にあった頭を動かす。
そうして、心臓の真上に耳を当ててくる。
「バカ、やめろって、恥ずかしいだろうが……!」
「ええ、だって、聴くのが好きなんだもん!」
美織は蒼汰の胸に張り付いたまま微動だにしなかった。
彼の心臓の音を聴くのが好きだという言葉通り、彼女は日向ぼっこをしている猫のような微笑みを浮かべていた。
「なんか俺ばっかり、こんな恥ずかしい目にあってだな」
すると、ちらりと美織が見上げてくる。
「自分だけ不公平だって思ってるの?」
「ああ、そうだよ」
すると、美織が蒼汰のもう片方の手の甲にそっと手を重ねてきた。
「だったら、君も私の心臓の音、聞いてみる?」
「は……?」
彼女の華奢な手が蒼汰の太い手首を掴んで持ち上げて、そっと彼女の胸の方へと誘導をはじめる。
「馬鹿か、お前は! 一応俺も男でだな! 軽々しく自分の身体を誰かに触らせようとするんじゃない!」
蒼汰は、赤面したまま思いがけず説教してしまった。
すると、美織がくすくすと笑いはじめた。
「ふふ、君は本当にからかい甲斐があって面白いなあ」
「くっ……」
蒼汰は美織に対して、ある種の敗北感のような気持ちを抱いてしまった。
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