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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする
15-1 花火の下でキス
しおりを挟む夏祭りも終盤だ。
夕暮れ時だったか、もうすっかり空は夜の帳に覆われている。
祭りのイベントが行われているステージでは、先ほどまで明るいロック調の曲が多かったのに、今は終わりに向けてバラードへと変化しつつあった。
早く寝せないといけないからだろう、小さな子どもたちも親が連れて帰っていて、数も減りつつある。小中学生も学校の先生たちが生徒指導のために来ているからか、八時を過ぎた段階で家に帰るように促されていた。
そのため、周囲には自分たちと同世代以上の人々だけで溢れているような有様だ。
彼らも自分たちと同じで、きっと最後に上がる花火を楽しみにしているのだろう。
座席から立ちあがった美織が、蒼汰の肩をツンツンと突いてきた。
「人が多くて、そろそろ疲れたよね、こっちに来て、少し休もう」
そうして、ステージのある場所よりもさらに奥にある神社の建物へと向かう。さらにそこの裏手にある場所に誘われた。
「こっちこっち、穴場なんだよ」
「よく知ってるな」
「えへへ、昔ここは良い場所だって教えてもらったことがあるんだよ」
「へえ……」
……誰に?
蒼汰にそれを聞く勇気はなかった。
きっと答えは分かっている。
(俺と出会う前の美織は、きっと昼空学と一緒に遊んでいたのだろうからな)
自分とは知らない美織が、自分の知らない人生を歩んできていて、誰かに自分には見せないような表情を浮かべていたのかと思うと、嫌で嫌でたまらなかった。
(集中しろ)
今は自分と過ごしてくれている美織に。
水の中に飛び込んだあと、水と一体化する感覚を味わう時のように、今ここに集中しろ。
蒼汰は大きく深呼吸する。
水面から顔を出して呼吸ができるようになった時の解放感を覚えながら、彼女の姿を眺めた。
「美織」
「ん? どうしたの? あ、そうだ、こっちこっち、休憩できる場所があるから来て来て!」
そうして、彼女に促されるがまま、蒼汰は丸太に座った。隣の切り株に美織が腰をかける。
「君、身体が大きいから、丸太がえらく小さく見えるね?」
「久しぶりにこんなもん座ったな」
美織は蒼汰の様子が面白かったのかクスクスと笑っていた。
立ち並ぶ林の隙間から夜空を眺める。
「ねえ、島の祭り、ちっちゃいけど楽しいよね?」
「ん? ああ、そうだな……」
すると、蒼汰の肩に美織の頭がちょこんと乗っかってきた。
ドクン。
彼の心臓が大きく高鳴った。
「えへへ、夏祭りに来れて良かったな」
「ん? ああ、そうだな」
「もう君ったら、さっきから、『ああ、そうだな』しか言わないんだけど?」
「え? ああ、そうだな……」
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