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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする
14-1 知らないはずの二人
しおりを挟む蒼汰は衝撃を受けて、その場で動けなくなってしまった。
血の気が引いていくような感覚があって、指先にうまく力が入らない。
目の前がぐるぐる回るような感覚がある。
(なんだ……何かがおかしい気がするのは気のせいか?)
母親によく似た少女に、どちらかと言えば恭平に近い山下先生。
自分は違う時代にでもタイムスリップしてしまったのだろうか?
そう思わないと説明がつかないぐらいの事態が目の前で起こっている気がするのだ。
(いや、待てよ、そんなおかしなことが起こるはずがない)
島の中には割と親戚同士の家も多い。
だから、もしかすると自分の知っている人間たちの親戚かもしれないのだ。
そもそも時間遡行だのタイムスリップだの、そんなのあり得るわけがない。
深呼吸をして自分自身を落ち着かせようと努力する。
(夢みたいな話があるはずがないんだ)
少女と山下先生はやはり自分などいないかのように美織とだけ会話をはじめる。星空学の時もそうだったが、知り合いじゃないので仕方がないのかもしれない。とはいえ、愛想笑いや会釈ぐらいあっても良いのではないかと思ってしまう。
けれども、ないものねだりだ。
「じゃあね、美織」
「じゃあな」
そうして、ほのかと呼ばれた少女と山下先生は一緒に並んで去って行った。
「二人とも仲が良いんだから」
美織がふふっと嬉しそうに微笑んだ。
蒼汰は一気に現実に引き戻される。
先ほどまで無音に感じていたが、人々のざわつきや祭りばやしや笛の音が耳にはっきりと聞こえるようになってきたのだ。周囲を見渡せば、普段こんなに島に人がいるのかと思わせるぐらいに、神社境内の人口密度が一気に高くなっていた。
蒼汰は美織に向かって問いかける。
「美織、お前が言ってたほのかと山下先生って、あいつらのことだったのか? てっきり俺が知ってる山下先生と一緒のやつだったと思ってたのに……全然違うやつだった」
そう、違う人物だった。
どこか異界にまぎれてしまったような心持ちになる。
「ええっとね、山下先生は島の外の国立大学に通ってるんだけど、教育実習生として帰ってきてたみたいだよ、二人は幼馴染で仲が良いんだって」
ザワリ。
幼馴染のほのかと山下。
どうしてだか、自分の妹ほのかと幼馴染の山下恭平の姿が脳裏に浮かぶ。
先ほど出会った二人の姿を交互に思い浮かべてみる。
「あいつらは……」
冷静になってみると、自分の母親や山下先生が若返ったわけではなく、ほのかと恭平が成長した姿だと言われば、なんとなく納得のいく姿だった。
だが、それはそれでおかしい。
(馬鹿な考えはやめろ……)
美織から話を聞いて、気づいてはいけない何かに気付かされるのも怖かったのかもしれない。
(今は考えるな、夏祭りを全力で楽しめ)
美織と過ごす夏祭りはこれが最後なのかもしれないのだから。
蒼汰は頭を振って荒唐無稽な考えを打ち消すことにした。
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