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第3章 夏祭りの夜、輝く君とキスをする

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 蒼汰が部屋の中に閉じこもり続けていた証拠だろう。
 父親がドアノブを回すとが扉が完全に開く。
 太陽の光が入ってきて、蒼汰の瞼を刺激してきた。
 庭先には雨が降ったのだろう。濡れた土の香りがこちらにまで届いてきた。
 出勤しようとする父親の後ろ姿へと視線を奪われる。

「親父、あんたはだいぶ……」

 今まで大きな背中だと思っていたが、自分が大きくなってしまったからか、男性にしては線が細い方だと感じるようになってきた。
 母親が死んで以来、ぐちゃぐちゃのワイシャツを身に纏って出かけていくのが、なんとなく情けなく思えているが、病院でスクラブや白衣に着替えるからか、当の本人には全く気に留めた様子がなかった。
 結局声を掛ける機会を逃したまま、父親の背を見送った。
 もうずっと口を利いていない。
 引きこもってばかりいる息子のことを、父はどう思っているのだろうか。

「考えても仕方がないか」

 蒼汰の父は、小中高と常に学年トップの成績をキープし、国立大学の医学部に現役で入学、在学中の講義と実習では教授たちから絶賛され、水泳部でも部長を務め、西日本の医学部生たちが集まる大会では個人トップの成績を収めた後、在学中に交際していた母を娶り……という華々しい経歴の持ち主である。
 そんな人間からすれば、蒼汰は不肖の息子以外の何物でもないだろう。

「俺は親父とは違ったんだよ」

 そつなく何でもこなす父のことだ。
 スポーツにのめり込みすぎて、競技が出来なくなるような、身体の使い方だってしないだろう。

「俺は、本当に……」

 浴衣か作務衣を借りたくて父親の部屋に許可なく入ろうかと迷ったが、結局入りきれず、祭りには手持ちのTシャツとジーンズで出かけることにしたのだった。





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