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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
11-1 美織の余命
しおりを挟む蒼汰は美織を呆然と見つめた。
「医者から、去年の夏に、余命一年って言われただって?」
ドクンドクンドクンドクン。
蒼汰はぎゅっと拳を握った。
心臓の音がうるさい。こめかみまで拍動しているのが分かる。
「うん、そうだよ」
美織が困ったように笑った。
(そんな、だとしたら、美織は……)
誰だって簡単に分かる話だ。
美織は本当なら今生きているのが奇跡で、いつ死んでもおかしくない状況だということだ。
彼女の死が訪れる瞬間は、たった今この瞬間でもおかしくはないのだ。
(こいつは……)
ちょうど太陽が海の向こうに姿を消した。
「お前は……」
死ぬのが怖くないのか?
いいや、怖いのに隠しているのか?
どうして、そんなに俺の前で気丈に振舞うことができるんだ?
けれども、蒼汰はその質問達を問いかけることは出来なかった。
「仕方ないよね、今の日本じゃあ病気を治す方法がないって、先生からは言われちゃったよ」
美織は困り顔を浮かべていた。
蒼汰は砂浜を眺める。
「悪い、お前の病気聞いて、図書館で調べてはいたんだ。だから、もしかしたらとは思っていたんだが、そんなに病状が悪いとは思ってなかった」
「私の病気のこと、調べてたの?」
「この間、『詮索するな』みたいなこと自分から言ったくせに、ごめん。どうしても気になって調べてたんだ、悪かった」
すると、美織が首を横に振った。
「ううん、だって私が病名を告げたんだもの。気になったら調べちゃうよ。私以外にも同じ病気の患者さん、いっぱいいるだろうしさ」
そうして、彼女は海を眺めながら続ける。
「元々体は丈夫じゃなかったけどさ。先生から余命は残り一年って言われてね、最初は頭が真っ白になっちゃった。え、私の人生、たった十八年で終わっちゃうの? 成人したら、大学生活楽しんだり、お酒飲んだりしたかったなって」
彼女の横顔は儚く泡になって消えていく人魚のように美しかったけれど、一方で前を見据える姿は、王子のことを思って泡になって消えていくだけの存在には見えなかった。
「最初はショックだったけど、でも、もう本当に一年しかないんだったら、自分が心底やりたいことだけやって死にたい、そんな風に思うようになったんだ」
美織の力強い眼差しを見て、蒼汰は胸を鷲掴みにされたような心持ちがした。
過去を憂いていた彼とは違う。
死に直面するその日まで――前を向いて生きようとしている彼女の芯の強さのようなものを感じた。
「いつ死ぬかは分からない。一分一秒だって無駄にしたくない。だから、星を毎晩見て過ごしたの。星になりたい、だから……」
美織の語りに対して、ついつい蒼汰は腰を折ってしまった。
「星になりたい、っていうのはどういうことだ?」
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