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第2章 月の引力で君と惹かれ合う

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 蒼汰は勢いよく海の中へと足を突っ込んだ。
 ざぶざぶと腰のあたりまで水の中に浸かる。久しぶりの感覚だった。
 そうして、泳がずとも平気な距離で帽子を手に取った。

「ちゃんと拾ったぞ!」

 彼は大声を上げつつ片手を振って知らせると、美織の表情が明るいものへと変わった。
 再び砂の上に足をつけると物足りなさを感じてしまう。

「ほら」

「ありがとう……だけど……!」

 突然、美織がハラハラと涙を流し始めてしまい、蒼汰はぎょっとしてしまう。

「どうしたんだよ……!?」

「だって、だって……」

 それ以上は言葉にならないようだった。咽び泣く彼女の姿を見て、蒼汰の胸の内にどうしようもなく愛おしさが込み上げてきてしまう。

「そんなに遠い距離じゃなかっただろう? 泣くなよな」

 完全に無意識だった。
 気付いた時には――
 彼は彼女のことを抱き寄せていた。
 彼の濡れた両腕が彼女のワンピースを濡らす。
 静かな浜辺に優しいさざ波の音色が聴こえる。
 しばらく抱きしめ合っていた二人だったが――

「キャンキャン!」

「シロや、夜は見えづらいから、ゆっくり歩いておくれ」

 ちょうど向こうから犬の鳴き声と飼い主と思しき老人の声が聴こえた。
 はっとなって二人して身体をパッと話す。

「悪い」

「いいえ、私の方こそ急に泣いてごめんなさい」

 謝る美織に対して、蒼汰がぶっきらぼうに返す。

「いいや、仕方がないだろう。俺が急に飛び込んだのが悪かったんだから」

 そうして、美織が鼻を啜りながらにっこりと微笑んだ。

「ううん、だけど、生きててくれて良かった」

 心底嬉しそうに微笑む美織の笑顔を見て、蒼汰の胸の内に動揺が走る。

「いいや、別に」

 どうしてそんな答えしかできないんだろう。
 彼は自分の愚かさを恥じてしまう。
 けれども、それさえも見透かしているかのように、美織が笑顔を浮かべた。

「大丈夫」

 ふと、蒼汰は湧いてきた疑問を尋ねる。

「そういえば、お前はさ、身体があんまり丈夫じゃないんだよな」

「え、うん、そう」

「ぱっと見全然どこが悪いのかが分からない。こう儚くはないよな」

「儚くないとか失礼なんだから!」

 蒼汰をポカポカと叩きながら猛抗議してきていた美織だったが、ふっと伏し目がちになる。

「だけど、確かに私も月になりたいな」

「なんでだよ?」

 すると、彼女は少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「月ってさ、綺麗なところしか見せないでしょう? 地球からは表側しか見えないじゃない」

「ああ、そうだな」

 その時、そっと美織が蒼汰の肩に頭をコツンと乗せてきた。
 ドクン。
 蒼汰の心臓が跳ね上がった。

「好きな人には綺麗なところだけを見せて、儚くなりたいなって……思ってるんだ、ずっと、ずっとね」

 彼はそんな彼女の肩をそっと抱き寄せたのだった。

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