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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
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しおりを挟む浜辺では美織がバンザイをしながら明るい声を上げた。
「じゃじゃ~ん、今日は月の観測をおこなうことにします!」
「お、やっと本番か」
蒼汰が口の端を吊り上げた。
天体望遠鏡の照準を月に合わせると二人で観察をはじめる。ピントを合わせると、黄金の月がくっきりと映っていた。
「今日は綺麗に月が見えるな」
「観察日和で良かったね!」
蒼汰は月が観れたので気持ちが弾んだが、隣ではしゃぐ美織を観察するのも同じぐらい面白かった。
「月の海」
美織が突然そんなことを言いはじめた。
「月の海? ああ、黒いとこは海みたいだよな」
蒼汰が問いかけると、美織が嬉々として語りだす。
「月の海っていったら綺麗な言葉だけど、実は海でもなんでもないんだよね。黒い玄武岩が溜まって海みたいに見えるんだ、神秘的だよね!」
「へえ、まあ確かにそうだな」
子どものようにはしゃぐ彼女を見ていると、蒼汰まで気分が明るくなってくる。
彼は思いついたことを彼女に向かって告げた。
「そのさ、月ってお前みたいだな?」
「え? どうして?」
美織がキョトンとしていた。
「お前って顔は悪くないだろう?」
「んん? 褒めてるの?」
「まあそうだな。でも実際は月みたいな儚い感じじゃあない」
「あんまり褒めてるようには聞こえないんだけど……!」
「まあとにかくだ。一応褒めてるんだよ」
食い掛ってこようとした美織を押しのけて、蒼汰は話を進める。
「そういやあ、こんな狭い島なのに、どうして話題になってなかったんだろうな?」
「え?」
美織が顎に手を当てて考え込み始めた。
「それは昨日も言った通り、体が弱くて学校に行ってないからだよ」
あっさりとした解答が返ってきたので、蒼汰も納得したのかポンと両手を打った。
「ああ、それもそうか」
「あと、私は元々眼鏡だった」
その発言を聞いて蒼汰はピンときた!
(眼鏡を外したら美少女という王道展開が現実にもあるなんてな……)
彼は嬉々として続ける。
「それだな、眼鏡だから話題にならなかったんだ。顔だけはとにかく可愛いからな」
「男の人に可愛いって言われるのは苦手なんだけどな? っていうか、顔だけはとにかく可愛いっていったい何!?」
頬を赤らめて抗議する美織は心底愛らしく、見ていて蒼汰の方まで頬が赤らむのを感じてしまう。
「ついつい本当のことを言っちまったな」
二人で和気あいあいとしていた、その時――
「あ……!」
美織の被っていた麦わら帽子が風に吹かれて空を舞い始める。
そうして、夜の海へと誘導されていく。
「大事な帽子なの!」
ザクザクと砂浜を進んだ美織だったが、打ち寄せる波際で足をすくめた。
そうして、彼女の顔を見れば、唇をぎゅっと噛みしめているではないか。眉根を引き絞ると、潤んだ瞳で蒼汰を見てくる。
「泳げないの……私……」
そこまで遠い距離ではない。
(海の中を歩くぐらいなら、今の俺だって……!)
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