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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
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しおりを挟む「ちっ、なんだよ、人のことからかいやがって」
蒼汰は色黒で良かったと思う。きっと恥ずかしくて顔が赤くなっているだろうから。
ひとしきり笑い転げた後、美織が浮かんだ涙を人差し指でそっとぬぐう。そうして、静かになった後に口を開いた。
「実はさ、私、留年してるんだ」
「え?」
思いがけない言葉を掛けられて、勢い込んで美織の方を振り向いてしまった。
「だから、学校では幽霊みたいな存在なの」
美織の姿を上から下まで眺めてみる。
そもそもちゃんと足はあるし、幽霊の類ではないのは明白だ。
それはそうとして、見た目は清潔に整っていて、素行不良の女子高生には見えない。
だとすれば、考えられる留年の理由は……
美織が首を傾げながら告げた。
「見ての通り、美人薄命ってやつ? 私さ、子どもの頃からあまり丈夫じゃなくて、それでね、入退院を何度も繰り返してたの。そうしたら、出席日数が足りなくて。補講も何度も受けたけど、結局留年しちゃった。だからまだ、高校二年生なんだよ」
病気で留年しているとなれば、正直すごく深刻な内容のはずなのに、美織は笑って話してきた。
相手が言いづらい内容の話を切り出してきたため、どう答えるのが最善なのか迷ってしまい、結局何も返すことが出来なくなった。
(本人もあっけらかんとしているから大丈夫なのか?)
それとも、心の中では泣いているんだとしたら、余計な発言をしては、相手を傷つけてしまうかもしれない。
だけど、沈黙は苦手だ。
ひとしきり考えあぐねた後、蒼汰は一度唾を飲み込むと、美織にぶっきらぼうに返した。
「なんで、俺にそんな話をするんだよ? ほとんど初対面に近い相手だぞ。別にお前の秘密を知りたくて、機嫌を損ねたんじゃない。言いたくないことなら、無理に言わなくたって、俺は困らないんだ」
「だって、君のことばっかり私だけが知ってて、なんだかフェアじゃないなって思ったんだよ」
「そうか……」
蒼汰に気を遣ってか、美織は自分のことを話してくれたのだろう。
(自分の不幸にばかり気を取られて、相手に何か事情があるなんて、気遣うことができなかったな)
この数日の自分を思い出して、蒼汰は恥じた。
「ごめんね、こんな急に暗い話をしちゃって」
「いいや、俺の方こそ悪かった」
蒼汰が素直に謝ると、美織が穏やかに微笑んだ。
しばらくの間、二人してだんまりになる。
今の静けさは嫌いな静けさではない。
潮騒が、まるで子守唄のように優しかった。
「っていうことは、お前は俺とタメってことになるな」
「そう、そうなの!」
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