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第2章 月の引力で君と惹かれ合う
6-1 誰かとの約束
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天文学部の部員になって迎えた翌日。
「ああ、俺って結構単純なやつだったんだな」
蒼汰は張り切って浜辺に来てしまった。
来るのが早すぎて、まだ海に太陽が沈んでいる真っ最中だ。けれども、そばでは天体望遠鏡をすでにスタンバイしている。
「何をやってんだろうな、俺は……」
蒼汰は砂浜の上で横になると、美織が来るのを待っていた。
まだ一時間以上時間がある。
遠足ではしゃぐ子どもみたいな行動をとってしまった。
ずっと引きこもって家族とも会話がない生活を送っていたから、誰かと話すのが嬉しいのかもしれない。
「嬉しい、か」
最近はそんな気持ちになるのを忘れてしまっていたように思う。
「夜海美織」
同級生の名簿を持っているので、彼女の名前を探してみたが、残念ながら見つからなかった。だから、学年が違うのかもしれないが……
「やっぱりなんか違和感があるんだよな」
なんだか引っかかりがあった。
もしかしたら、最初に考えたように夏の間だけ出る幽霊の類かもしれない。
天文学部の入部以上に、もしかしたら未知の存在である夜海美織に対して興味が沸いてきている可能性だってある。
とはいえ、本当に三日連続で来るのだろうか?
昨日来たのだってたまたまかもしれない。それとも二日連続で来たのだし、ちゃんと入部したわけだから、今日もちゃんと来るかもしれない。
水平線に沈む太陽の揺らめきと、遠くで聞こえる人々の別れの声を聴きながら、時間が経つのを待った。
蒼汰は、ちらりと腕時計を目にする。
「まだ時間があるな」
秒針を眺めていると、高校入学の祝いにとこの時計を渡してくれた父のことを思いだした。
蒼汰は、誰かを待つことに対して諦めているところがある。
その原因こそが実の父親の存在だ。
幼少期の蒼汰は、父親が早く迎えに来てくれるのをいつも待っていた。
『蒼汰、今日はお前の好物のハンバーグを母さんの代わりに作ってやるから』
母は、妹のほのかを産んでしばらくして産後の肥立ちが悪くて死んでしまった。現代の医療水準では珍しいことかもしれないが、元々そこまで体が丈夫だったわけじゃないそうで、残念ながら亡くなってしまったのだ。
『六時の迎えには間に合わせるから』
そんな風に話してくれて、幼いながらに、わくわくして父のことを待っていた。夕方になるにつれて、どんどん他の父母が周りの友達を迎えに来る中、いつも蒼汰とほのかは園舎の中で最後まで残っていた。
おかげで先生たちには可愛がってもらえたが、本当に迎えに来てもらえるのか不安で仕方がなかった。
『蒼汰くん、ほのかちゃん、迎えが来たよ』
「ああ、俺って結構単純なやつだったんだな」
蒼汰は張り切って浜辺に来てしまった。
来るのが早すぎて、まだ海に太陽が沈んでいる真っ最中だ。けれども、そばでは天体望遠鏡をすでにスタンバイしている。
「何をやってんだろうな、俺は……」
蒼汰は砂浜の上で横になると、美織が来るのを待っていた。
まだ一時間以上時間がある。
遠足ではしゃぐ子どもみたいな行動をとってしまった。
ずっと引きこもって家族とも会話がない生活を送っていたから、誰かと話すのが嬉しいのかもしれない。
「嬉しい、か」
最近はそんな気持ちになるのを忘れてしまっていたように思う。
「夜海美織」
同級生の名簿を持っているので、彼女の名前を探してみたが、残念ながら見つからなかった。だから、学年が違うのかもしれないが……
「やっぱりなんか違和感があるんだよな」
なんだか引っかかりがあった。
もしかしたら、最初に考えたように夏の間だけ出る幽霊の類かもしれない。
天文学部の入部以上に、もしかしたら未知の存在である夜海美織に対して興味が沸いてきている可能性だってある。
とはいえ、本当に三日連続で来るのだろうか?
昨日来たのだってたまたまかもしれない。それとも二日連続で来たのだし、ちゃんと入部したわけだから、今日もちゃんと来るかもしれない。
水平線に沈む太陽の揺らめきと、遠くで聞こえる人々の別れの声を聴きながら、時間が経つのを待った。
蒼汰は、ちらりと腕時計を目にする。
「まだ時間があるな」
秒針を眺めていると、高校入学の祝いにとこの時計を渡してくれた父のことを思いだした。
蒼汰は、誰かを待つことに対して諦めているところがある。
その原因こそが実の父親の存在だ。
幼少期の蒼汰は、父親が早く迎えに来てくれるのをいつも待っていた。
『蒼汰、今日はお前の好物のハンバーグを母さんの代わりに作ってやるから』
母は、妹のほのかを産んでしばらくして産後の肥立ちが悪くて死んでしまった。現代の医療水準では珍しいことかもしれないが、元々そこまで体が丈夫だったわけじゃないそうで、残念ながら亡くなってしまったのだ。
『六時の迎えには間に合わせるから』
そんな風に話してくれて、幼いながらに、わくわくして父のことを待っていた。夕方になるにつれて、どんどん他の父母が周りの友達を迎えに来る中、いつも蒼汰とほのかは園舎の中で最後まで残っていた。
おかげで先生たちには可愛がってもらえたが、本当に迎えに来てもらえるのか不安で仕方がなかった。
『蒼汰くん、ほのかちゃん、迎えが来たよ』
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