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第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う

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「私、あんまり海には顔を出してなかったんだ。だけど、昨日はなんとなくここに来たくなってね。ううん、来なきゃいけないって直感。だから、外に飛び出してきたの」

「直感で……? っていうか、女性が夜に一人でこんな場所は危なくないか?」

「ああ、それは大丈夫。この場所だったら、ね」

 何を根拠に「大丈夫」だと言っているのだろうか。
 もしかすると、危機管理に乏しいタイプなのかもしれない。とはいえ島暮らしだから仕方のないところもあるだろう。
 子どもの頃に聞いた話だ。わりと島に住んでいるご高齢の人たちがまだ若い頃は、家の鍵を閉めずにいると、近所の人が勝手に家の中に入っていることはあれども、泥棒は入ってこなかったそうだ。
 そもそも、広い島ではあるものの閉ざされた空間だし、何かあればすぐにバレてしまう。なので、島での犯罪行為自体が少ない。こういった理由も危機意識が薄くなる原因の一つなのだろう。

(しかし、美織の両親は何も言わないんだろうか?)

 もしかすると自分と似たような境遇かもしれないと思うと、勝手に親近感がわいてきてしまった。

(俺の勝手な想像だな。)

 蒼汰が頭を振ると同時に、膝を抱え直した美織が口を開いた。

「もうずっとずっと昔。まだ小学生だった頃、ここで潮騒を聴くのが好きだったの」

「……」

「だから、嘘じゃないんだよ?」

 美織は膝の上で頭を傾げながら蒼汰の方を振り向いた。
 どことなく寂しそうに微笑んでみえる。
 目くじらを立てて怒る自分が子どもっぽい気がしてしまった。

「そうか」

 一度溜息を吐いて、そっと海を眺める。
 浜辺に波が打ち寄せては返す。
 一定のリズムで奏でられるメロディを静かに二人で耳にする。

「俺は海よりも星を観察する方が好きになれそうだな」

 夜だからこそ、海に出て来れているところがある。だって、昼の海だと、泳ぐ人たちの姿を見て、胸が苦しくなるから。
 蒼汰がセンチメンタルな気持ちに陥っていたら、美織が目を細めながら続けてきた。

「私もさ、ずっと海に来るのが怖かったの」

 彼の潜在的な恐怖を察知したのだろうか?
 怖いと直球で告げられてしまい、蒼汰の胸中に動揺が走る。

「俺は別に怖くなんか……」

 言い訳しようとしていたのだが……

「だけど、昨日ここに来たら、君に会えたから良かったなって」

「え?」

 先ほどから心臓に悪い。
 真剣な黒い瞳で見つめられる。星の煌めきが宿っていて、彼女の美しさを引き立たせていた。心臓がドキドキして落ち着かない。


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