上 下
16 / 122
第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う

5-2

しおりを挟む
 蒼汰は自分で言っておきながら胸が苦しくなった。
 それ以上何か伝えることが出来ず、そのまま星空を眺めることにした。
 今日は昨日と違って、空には雲一つない。教科書で習ったから知っているのだが、夏の大三角形が綺麗に見える。星が燦然と輝いていて、なんだか無性に眩しかった。

(無駄なこと、無駄な時間だったんだろうな)

 そう、水泳に多くの時間を費やしてきた。
 残せた成果だって多かった。
 けれども、結果として選手生命は絶たれてしまったのだ。
 これまでの全てが無駄で徒労に終わってしまったように感じて、どうしようもない。

(くそっ……)

 胸をかきむしりたくなる衝動を抑え込む。
 放っておけば、抱え込んでくすぶった内なる獣が胸の中で暴れて、蒼汰の身体を突き破って飛び出してきそうだった。
 やるせない気持ちを抱えたまま、静かな時を過ごす。
 どれだけの時間が経っただろうか。
 蒼汰の隣に座り込んだ美織が、一緒に黙って星空を見つめていた。
 どうやら彼女に帰るつもりはないらしい。
 せっかく一人で天体観測ができる穴場だと思っていたのに、誰かがそばにいるようじゃあ、なんだか休んだ気にもなれない。
 そんな風に伝えようかと思っていた、ちょうどその時……

「あのね、この場所なんだけどさ」

「なんだ?」

 蒼汰の心を知ってか知らずか、美織は突然場所の話をはじめた。
 かと思えば、瞳をくるくる上下左右に動かして、見ていて飽きない。
 そうして、こちらを見据えると続けた。

「君がくる前は、私専用の場所だったんだよ!」

「は?」

 蒼汰は驚きの声を上げる。
 自分がこの穴場を見つけたのはつい昨日だ。結構人が少なくて良い場所だなって、昨晩は自分だけの特等席だと思いこんでいたわけだが、そもそも公共の場所で自分のそんな場所があるはずもない。

(そりゃあ、そうだよな)

 どう返して良いか考えあぐねた後、蒼汰は返答した。

「じゃあ俺がお前の邪魔してたってことか、悪かった」

 すると、美少女がくすくすと笑い始めた。

「なあんてね! 最近はずっと来てなかったんだ。ここ、涼しくて誰もこない穴場で良い場所だよね」

「ああ?」

 最近は来ていないのなら、美織専用でも何でもないではないか。

(もしかすると揶揄われた?)

 こちらは割と心配して謝ったというのに、冗談だと分かってムッとなってしまった。
 そんな蒼汰の胸の内に気付いているのかいないのか、美織は話を続ける。

「だけど、本当に本当のことなんだ」

 ふんわりした言い回しだ。
 ふと彼女の横顔を見れば少しだけ陰って見えた。伏し目がちになって黒くてびっしりと生えた睫毛が頬に影を作っている。頬に落ちる黒髪をそっと耳にかける姿が、やけに妖艶に映った。
 彼女は砂浜を見つめたまま続ける。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

W-score

フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。 優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...