満天の星の下、消えゆく君と恋をする

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う

3-3

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「ええっと、だけど、君の場合は、入部できるのかな? ううむ?」

 今度は顎に手を当てて唸りだした。
 蒼汰は眉を顰めながら、なんとなく返す。

「別に入部希望なんかじゃねえよ」

 すると、美織が明らかにシュンと落ち込んでしまった。

「入部してくれないの?」

「ああ、そうだけど」

 彼女は、叱られた子犬のように、どんどんしおらしくなっていく。

「うう、このままだと、天文部として成り立たないよ。入部希望者、なかなか見つからなくて、廃部になっちゃう」

 美織はこちらをチラチラと伺ってくる。
 なんとなく甘えてくる猫を想起させる動きだ。
 正直、人の身体の上に乗った状態でやる態度ではないが……

「今俺はもう何の部活にも入ってないことになってるから、入ろうと思えば入れるけどな」

 思いがけずそんな言葉が、蒼汰の口を吐いて出た。

 そんな返事をするつもりはなかったのに……

 ……美少女は得だ。

 入部すると言えば、彼女のことをもっと知れるかもしれないとか、そんな邪な感情が過ってしまった。
 自分がこんなに現金な奴だったとは思ってもみなかった。

「ああ、やっぱり入部希望なんだ!! すごく嬉しい! これからぜひよろしくね!」

 彼女の満面の笑みを見ていると、天文部入部もまんざらではない気がしてくる。

(こんな可愛い子に近づけるチャンスなんて、なかなかないしな)

 部活に一生懸命励んできただけで、蒼汰は俗物――もとい、健全な男子高校生だ。
 美少女に頼られて悪い気はしない。

「そういやあ、高校に天文部だなんて初めて聞いたがな」

 すると、美織は胸をそらし、得意げな表情で答えた。

「ふふ、それはそう! だって、私は天文部部長であり、唯一の天文部員なんですから!」

 立っていたら、その場ですっ転んでいたかもしれない。

「は? お前だけ?」

 すると、美織が頬を膨らませる。

「そうよ、何か文句ある?」

 口を尖らせる表情も正直可愛い。

「ああ、いいから、どけよ、ずっと重いっての。そもそも男の身体に乗ってくるなって」

「え? ああ、きゃあっ、ごめんなさい!」

 今頃気づいたと言わんばかりの態度をとったかと思うと、彼女は蒼汰の身体の上から、スカートの裾を翻しながら飛び退いた。

「ったく」

 髪に付着した砂を手で払いながら、蒼汰はぼやく。
 ふと、彼の硬い唇の上に柔らかな何かが触れた。
 正体は彼女の人差し指だ。
 蒼汰の頬にさっと朱が差す。

「お前、何やって?」

 脇にしゃがみこんでいた美織がイタズラっぽい笑みを浮かべた。

「言質、とったからね」

 彼女が首を傾げると、さらりと黒髪が華奢な肩先から零れた。なんだか白い肌がやけに艶めかしく映る。
 雲の影からちょうど月が姿を現わして、彼女をキラキラと輝かせた。
 まるで空の上から天使が舞い降りてきたみたいで……
 なんだか昔見た映画のワンシーンみたいだった。
 彼女に魅了されてしまいそうな本心を隠すべく、蒼汰は視線を砂浜へと戻す。

「ええっと、よるうみみおり、だったか? 俺の名前は――」

 そうして、思い切って脇に視線を移した。

「あれ?」

 だが、そこにいるはずの美少女の姿はそこにはなかった。
 風が吹いて、さらさらと砂が舞い踊る。
 波の打ち寄せる音が強く強く響いてきた。

「あいつ、いったいどこにいった?」

 まるで生者ではないかのように、夜海美織と名乗る美少女は跡形もなく消えてしまっていたのだ。
 いつの間に?

「やっぱり夢だったのか?」

 試しに頬をつねってみるが、痛みはあるから、どうやら現実のようだ。
 考えあぐねる蒼汰だったが、荒唐無稽な想像が頭を過る。

「まさか、夏だからって怪談の類じゃあないよな?」

 ざわざわと柄にもなく鳥肌が立ち背筋に怖気が走る。

「そんなわけないか。ああ、しかし、やけにリアルな夢だったな。もう帰るか」

 きっと夢か錯覚だ。
 蒼汰はそんな風に自分に言い聞かせると、その夜は浜辺を立ち去ったのだった。

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