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第9話 爛れた悪魔
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「セラフィー、そんな化け物が俺のはずないだろう――? さあ、そんな気味が悪いゾンビみたいなやつからは手を離して、こっちに来るんだ」
「あ……」
ふっと2人を繋いでいた赤い糸へと視線を移すと、枝分かれして両方に伸びていたのだ。
これでは本物がどちらなのか判別出来ない。
困惑していると――。
掴んだ老人の腕はぐちゅりと音を立てると同時に、熱を帯び始めた。
「あっ……」
肌の脂が火で炙られて燃えているのだ。
ジュッと音を立て、私の掌まで焦がしてくる。
「……っ」
すると――。
老人が振り絞るようにして嗄れた声を出してきた。
「セラフィー、離れろ」
「あ……」
いよいよ肌は溶けきって、骨の露出面積が増えていく。
「あいつは俺じゃあないし、性格も歪んじゃあいるが、お前に危害を加えることはしない……だから、離れろ、お前まで闇に取り込まれて、業火で燃やし尽くされてしまう……お前にこれ以上気持ちが悪いと思われたくない……だから……頼むから、離してくれ……」
老人の優しい声音……。
すると――綺麗なベリアルお父様が私に向かって叫んでくる。
「セラフィー、そいつの言うとおりだ、離せ! 火傷するぞ!」
このままだと分からなくなってしまう。
私は一度瞼を閉じる。
――見た目が綺麗なことは悪いことではない。
時に優れていることの証明にもなる。
だけど――時に相手の本質を隠してしまうことがある。
だから――。
「お父様……」
「なんだ?」
綺麗なお父様の方へと視線を向けると問いかけた。
「お父様……でしたら、この名前を私につけてくださった日のことを覚えていらっしゃいますか?」
ふっと綺麗なベリアルお父様が微笑んだ。
「もちろんだ。あの天使のセラフィーに似ているからと、お前に名前を授けたのは俺なんだからな……」
私も微笑みかえした。白い羽がひょこひょこ動く。
「良かった、覚えてくださっていたのですね……やっぱり貴方が私のお父様です……!」
すると、私の手の内にある老人の手がピクリと動いた。
「だったらセラフィー、俺のところに来いよ」
「ごめんなさい、お父様、こちらのご老人にも糸があるせいで、そちらに行けないのです。だから、どうかこちらにきてください」
すると、綺麗なお父様が私に近付いてきて、そうして私の頬に手を伸ばしてくる。
そうして、そっと頬に触れてきた、その瞬間――。
「えいっ……!!!」
綺麗なお父様が閃光に包み込まれた。
彼が呻く。
「セラフィー、どうして……!??」
「貴方が偽物だからに決まってます!! お父様は――わざわざ前世の恋人の名前を娘につけたりはしない……!!」
そうして――。
目の前で綺麗なお父様は光の焔に焼かれて消えていったのだった。
『ちっ……』
どこかで誰かの舌打ちが聞こえた。
『だが、ベリアルの真の姿を見てしまった以上、お前がそいつに生気を与えてやれるはずがない……』
声はそれだけ言うと、すうっと闇へと消えていった。
「ごめんなさい、お父様……!!」
老人の方へと視線を移す。
肌は朽ち果てミイラ化しはじめていた。
「仕方がないさ……なあ、このまま俺はここで朽ち果てて構わない……どうか、お前は新しい恋をしてくれ……俺のことを思うのなら……」
「いいえ!! どんなお父様でも、お父様はお父様なのです!! だから――」
「セラフィー」
私はそっと嗄れた老人の頬に両手を添える。
「お父様……」
「セラフィー」
「私はどんな姿でも、貴方のことを愛しています……だから、どうか……どんな姿でも良い……短い時間でも良いから……生きて……」
彼の乾いた唇に、そっと唇を重ねる。
光の粒子が零れはじめる。
そうして――。
二人して目映い光に包み込まれていったのだった。
「あ……」
ふっと2人を繋いでいた赤い糸へと視線を移すと、枝分かれして両方に伸びていたのだ。
これでは本物がどちらなのか判別出来ない。
困惑していると――。
掴んだ老人の腕はぐちゅりと音を立てると同時に、熱を帯び始めた。
「あっ……」
肌の脂が火で炙られて燃えているのだ。
ジュッと音を立て、私の掌まで焦がしてくる。
「……っ」
すると――。
老人が振り絞るようにして嗄れた声を出してきた。
「セラフィー、離れろ」
「あ……」
いよいよ肌は溶けきって、骨の露出面積が増えていく。
「あいつは俺じゃあないし、性格も歪んじゃあいるが、お前に危害を加えることはしない……だから、離れろ、お前まで闇に取り込まれて、業火で燃やし尽くされてしまう……お前にこれ以上気持ちが悪いと思われたくない……だから……頼むから、離してくれ……」
老人の優しい声音……。
すると――綺麗なベリアルお父様が私に向かって叫んでくる。
「セラフィー、そいつの言うとおりだ、離せ! 火傷するぞ!」
このままだと分からなくなってしまう。
私は一度瞼を閉じる。
――見た目が綺麗なことは悪いことではない。
時に優れていることの証明にもなる。
だけど――時に相手の本質を隠してしまうことがある。
だから――。
「お父様……」
「なんだ?」
綺麗なお父様の方へと視線を向けると問いかけた。
「お父様……でしたら、この名前を私につけてくださった日のことを覚えていらっしゃいますか?」
ふっと綺麗なベリアルお父様が微笑んだ。
「もちろんだ。あの天使のセラフィーに似ているからと、お前に名前を授けたのは俺なんだからな……」
私も微笑みかえした。白い羽がひょこひょこ動く。
「良かった、覚えてくださっていたのですね……やっぱり貴方が私のお父様です……!」
すると、私の手の内にある老人の手がピクリと動いた。
「だったらセラフィー、俺のところに来いよ」
「ごめんなさい、お父様、こちらのご老人にも糸があるせいで、そちらに行けないのです。だから、どうかこちらにきてください」
すると、綺麗なお父様が私に近付いてきて、そうして私の頬に手を伸ばしてくる。
そうして、そっと頬に触れてきた、その瞬間――。
「えいっ……!!!」
綺麗なお父様が閃光に包み込まれた。
彼が呻く。
「セラフィー、どうして……!??」
「貴方が偽物だからに決まってます!! お父様は――わざわざ前世の恋人の名前を娘につけたりはしない……!!」
そうして――。
目の前で綺麗なお父様は光の焔に焼かれて消えていったのだった。
『ちっ……』
どこかで誰かの舌打ちが聞こえた。
『だが、ベリアルの真の姿を見てしまった以上、お前がそいつに生気を与えてやれるはずがない……』
声はそれだけ言うと、すうっと闇へと消えていった。
「ごめんなさい、お父様……!!」
老人の方へと視線を移す。
肌は朽ち果てミイラ化しはじめていた。
「仕方がないさ……なあ、このまま俺はここで朽ち果てて構わない……どうか、お前は新しい恋をしてくれ……俺のことを思うのなら……」
「いいえ!! どんなお父様でも、お父様はお父様なのです!! だから――」
「セラフィー」
私はそっと嗄れた老人の頬に両手を添える。
「お父様……」
「セラフィー」
「私はどんな姿でも、貴方のことを愛しています……だから、どうか……どんな姿でも良い……短い時間でも良いから……生きて……」
彼の乾いた唇に、そっと唇を重ねる。
光の粒子が零れはじめる。
そうして――。
二人して目映い光に包み込まれていったのだった。
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