24 / 45
第8話 地獄の試練
24
しおりを挟む相手の話の意図に関して私が考えていると、突然、頭上に煌々とした光の渦が出現した。
「なに……!?」
『魔王ベリアル、天使セラフィー』
頭の中に直接男性の声が――天上の神の声が響きはじめる。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
『もう魔王ベリアルの肉体は死に瀕しています。地獄から魔界に戻ったとしても、人間達と同じほどしか生きることは出来ないでしょう……』
「たとえ短い時間でも、私はベリアルお父様と一緒に過ごしたい……」
そうして、ぎゅっと拳を握った後、私は光に向かってきっぱりと告げる。
「だって私は……お父様のことを愛しているから」
力強く告げる。
だけど、それは私の身勝手な我がままだろうか?
視線を移すと、ベリアルお父様の紫水晶の瞳が揺れ動いていた。
「セラフィー……」
『素晴らしい……セラフィー、天使だというのに悪魔を愛せる貴女の本気をどうか、私にもっと見せていただけますか……?』
「私の本気を……?」
『ええ。一度だけ機会を与えましょう。今からセラフィーとベリアルの小指同士に見えない糸を繋ぎます。そうして、セラフィーがベリアルを導き、この地獄から彼を連れ出すのです。ただし、絶対に振り向いてベリアルの姿を見てはいけません。無事に魔界へと連れていくことが出来たら、ベリアルを魔王から解放し、残り少ない余生を過ごしてもらいましょう』
ぱあっと胸の内が明るくなっていくと同時に、漠然とした不安に苛まれる。
「本当に……? お父様を連れて行くだけで好いのですか? そんな簡単で良いのですか?」
……罠なのではないだろうか――?
すると――。
『もちろん、罠などではありません。私は天上の神、嘘を吐くことは許されない。ただし……』
「ただし……?」
『ベリアルには人として生きてもらおうと思います――ベリアルはどうでしょうか?』
身体がズシンと重くなっていき、心臓がバクバクと落ち着かない。
魔王として名を馳せてきたベリアルお父様が人として生きる……。
彼はどう答えるだろうか――?
すると――。
「俺がどんどんジジイになる姿を見て、セラフィーに愛想を尽かされるは勘弁だな……」
「……私はベリアルお父様がおじいさんになったとしても、一緒に生きていきたいんです」
「強情な娘に育っちまったな……だったら、俺も覚悟を決めてやるよ」
「お父様……」
彼の優しさが胸いっぱいに広がっていく。
『セラフィー、どんな姿になってもという言葉に二言はありませんか?』
「もちろんです」
『地上に近付けば近づくほど、ベリアルの真の姿が曝け出されてしまいます。先ほど、何があっても振り向いてはいけないと伝えましたが、一度だけなら振り向いてもらっても構いません。真実のベリアルの姿を見て、貴女が動揺すれば、ベリアルは地獄へとまた引き戻されてしまうことでしょう。その時は、貴女の聖なる力を彼に触れて分け与えなければなりませんよ』
それを聞くと、ベリアルが眉を顰めた。
「はい、ありがとうございます、神様」
『ええ、あなた達の絆をどうか私に見せてください』
すると、光は収束して、消えていったのだった。
気づけば小指には糸が伸びている。
(もう試練は始まっているのね……)
「お父様、行きましょう!」
「ああ……セラフィー……お前のためにも俺のためにも、絶対にこっちを振り返らないでくれ」
彼の言葉を胸に、私は地獄から魔界への道を戻りはじめたのだった。
12
お気に入りに追加
474
あなたにおすすめの小説
国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる
一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。
そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。
それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~
一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、
十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。
ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は
その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。
幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、
目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。
彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。
訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、
やがて彼に対して……?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
貧乳の魔法が切れて元の巨乳に戻ったら、男性好きと噂の上司に美味しく食べられて好きな人がいるのに種付けされてしまった。
シェルビビ
恋愛
胸が大きければ大きいほど美人という定義の国に異世界転移した結。自分の胸が大きいことがコンプレックスで、貧乳になりたいと思っていたのでお金と引き換えに小さな胸を手に入れた。
小さな胸でも優しく接してくれる騎士ギルフォードに恋心を抱いていたが、片思いのまま3年が経とうとしていた。ギルフォードの前に好きだった人は彼の上司エーベルハルトだったが、ギルフォードが好きと噂を聞いて諦めてしまった。
このまま一生独身だと老後の事を考えていたところ、おっぱいが戻ってきてしまった。元の状態で戻ってくることが条件のおっぱいだが、訳が分からず蹲っていると助けてくれたのはエーベルハルトだった。
ずっと片思いしていたと告白をされ、告白を受け入れたユイ。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?
おのまとぺ
恋愛
オリヴィアはエーデルフィア帝国の王宮で料理人として勤務している。ある日、皇帝ネロが食堂に忘れていた指輪を部屋まで届けた際、オリヴィアは自分の名前を呼びながら自身を慰めるネロの姿を目にしてしまう。
オリヴィアに目撃されたことに気付いたネロは、彼のプライベートな時間を手伝ってほしいと申し出てきて…
◇飯炊き女が皇帝の夜をサポートする話
◇皇帝はちょっと(かなり)特殊な性癖を持ちます
◇IQを落として読むこと推奨
◇表紙はAI出力。他サイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる