上 下
16 / 45
第6話 語られる過去

16

しおりを挟む


 ベリアルお父様と二人っきりになった。
 少しだけ風に当たりたいからと魔界を出て、地上にある湖の畔を二人で歩く。
 ちょうど夜半だからか、周囲には誰もいなかったが、お互いの羽は仕舞って人間に擬態した。
 湖の中を泳ぐ魚が跳ねて、時折ピチャンと水が跳ねる音が聞える。
 湖面には黄金の満月が映り、ゆらゆらと揺れていた。

「セラフィー」

 私の隣を歩いていたベリアルお父様がゆっくりと口を開く。
 まっすぐ前を向いたままの彼の横顔が見えるが、少しだけ逆光で見えづらい。

「――俺は生まれた頃からの生粋の悪魔じゃあない」

 その言葉を聞いて、私ははっと息を呑んだ。

「もう何千年と前の話になるが、元々はお前と同じ存在だった」

「え――?」

 私が驚きの声を上げようとも、お父様がこちらを見てくることはない。

「俺は……天界に仕える天使だった」

「お父様が……天使……」

 ちょっとギャップが激しすぎて想像がつかない。
 とはいえ、のらりくらりと適当な発言をしてくることもあるが、肝心なことをはぐらかしたりはあまりしない性質の男性なのだ。
 だから、話していることは事実なのだろう。

「それも、結構位も低くない立ち位置の、な……」

「そんな高位の天使だったのに……お父様はどうして魔王様になってしまわれたのですか?」

 すると、ぽつぽつと話しはじめた。

「お前も知っての通り、神が生み出した焔から生まれた創造物である天使しか、元々この世界には存在しなかった。基本的に性別は男の、な。だが、地上に人間が生まれて以来、彼らの誘惑に負けてしまって、人間に子を孕ませた罪で堕天使に身を堕とす者達や、悪魔と成り果ててしまう者達が現われるようになった」

 お父様の横顔の陰りがより一層強くなったような気がした。

――地上に人間が生まれて以来、堕天使や悪魔が増えた。

 それに、そんな風に話すお父様の言葉を耳にして、なんだか妙に胸がざわざわとざわついて仕方がない。

 お父様は続ける。

「自身の創造物である天使を人間に奪われた挙げ句の果てに、堕落していく姿を見るのが悲しくなっていって、神はやがて天使を作らなくなった。そのうち、天使や悪魔達は、稀に生まれてくる女の同種族と交わることで子を成して繁殖する方法を見いだすようになった――ここまでは大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「そうか……お前はやっぱり聡いな、セラフィー」

 そう言われるとなんだかむずがゆくて嬉しくてそわそわしてしまう。

「そんな中、堕天に身を滅ぼすことがないようにと、天界から地上への監視が続いた。そんなある日のことだ――」

 お父様が過去の話をポツポツと語りはじめたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...