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第2話 ベリアルお父様
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――夫候補ではないの? もうすでに魔王だから?
そこまで言いかけて、私は口を噤んだ。
(私は……何を言おうとして……)
お父様の、魔眼と称される、人を惑わす赤い血のような瞳を見る。
こちらからその瞳を覗いても、彼が何を考えているのかは分からなかった。
なんだか胸がとっても苦しくなって、また視界が潤んでくる。
その時――。
バサリ。
羽音が聞えたかと思うと――。
いつのまにか、私はお父様の腕の中にいた。
「セラフィー、お前が泣くのが――俺は苦手なんだよ……だから泣くなよ……」
理由は自分でも分かっている。
分かっているけれど、どうしても悲しくて涙が溢れて止まらない。
「お前があの三人から婿を選ばない限り、お前は天界に連れ戻されてしまうだろう……だが、俺は……お前を――」
言いよどむお父様のことを見て、私は咄嗟に声をかけた。
「お父様が連れてくださった三人のうちの誰かが、私のお婿さんになるの、とっても嬉しいです……それで、興奮したら眠れなくなっただけなんです」
羽がひょこひょこ動いているのも忘れて、困り顔のお父様に必死に伝える。
「興奮して眠れなくなった……?」
「そう、そうなんです!」
「成人しても――まだまだガキだな……お前は――」
そういうと、ベリアルお父様が大きな手で私の綿菓子みたいな髪をふわふわと撫でてくれる。
「……昔みたいに、お父様が手を繋いでくれたら眠れそうな気がします……だから、どうか、私が眠れるまでそばにいてください……今日で最後にしますから……」
だけど、相手からの反応がない。
「最後、か……」
一瞬だけ――。
気怠げなお父様の表情に、ふっと陰りが差した気がしたけれど――見るといつもと同じ淡々とした表情だった。
「仕方ないな……他の奴らには内緒にしておけよ……」
「はい……――」
そうして、ベッドに横たえられると、そばにベリアルお父様が座ってくれて、そっと私と手を繋いでくれた。
久しぶりに繋ぐお父様の手は暖かくて、とっても気持ちが良い。
(本当はずっとずっとこうしていたい……)
だけど、私は大人にならないといけないのだ。
うとうとしながら、私はお父様に声をかける。
「お父様の言うとおり……セラフィーは良い子にして、ちゃんと、お婿さんを選びますから…………」
「ああ、そうしてくれ――そうしたら、俺も安心して……――」
それ以上、瞼が重くて、私は何も言えなくなる。
「ああ、もう寝ちまったのか……セラフィー」
意識が遠のく中、ベリアルお父様がポツポツと口を開く。
「――魔王候補達が生まれてきた……それは、つまるところ、魔王の俺が――だが、あいつらになら、大事なお前を任せることができる。お前をちゃんと支える男がそばにいるんだって分かりさえすれば、そうしたら俺は安心して……」
安心して――?
(――なんで、お父様は私のお婿さん候補じゃないんだろう……次期魔王を選ぶため? それとも他に何か理由があるの?)
だけど、それ以上は何も考えられなくなる。
「だから、俺は……――おやすみ、俺の大事な愛娘セラフィー、良い夢見ろよ……」
お父様の優しい手の温かさを感じながら、私は幸せな眠りに就いたのだった。
そこまで言いかけて、私は口を噤んだ。
(私は……何を言おうとして……)
お父様の、魔眼と称される、人を惑わす赤い血のような瞳を見る。
こちらからその瞳を覗いても、彼が何を考えているのかは分からなかった。
なんだか胸がとっても苦しくなって、また視界が潤んでくる。
その時――。
バサリ。
羽音が聞えたかと思うと――。
いつのまにか、私はお父様の腕の中にいた。
「セラフィー、お前が泣くのが――俺は苦手なんだよ……だから泣くなよ……」
理由は自分でも分かっている。
分かっているけれど、どうしても悲しくて涙が溢れて止まらない。
「お前があの三人から婿を選ばない限り、お前は天界に連れ戻されてしまうだろう……だが、俺は……お前を――」
言いよどむお父様のことを見て、私は咄嗟に声をかけた。
「お父様が連れてくださった三人のうちの誰かが、私のお婿さんになるの、とっても嬉しいです……それで、興奮したら眠れなくなっただけなんです」
羽がひょこひょこ動いているのも忘れて、困り顔のお父様に必死に伝える。
「興奮して眠れなくなった……?」
「そう、そうなんです!」
「成人しても――まだまだガキだな……お前は――」
そういうと、ベリアルお父様が大きな手で私の綿菓子みたいな髪をふわふわと撫でてくれる。
「……昔みたいに、お父様が手を繋いでくれたら眠れそうな気がします……だから、どうか、私が眠れるまでそばにいてください……今日で最後にしますから……」
だけど、相手からの反応がない。
「最後、か……」
一瞬だけ――。
気怠げなお父様の表情に、ふっと陰りが差した気がしたけれど――見るといつもと同じ淡々とした表情だった。
「仕方ないな……他の奴らには内緒にしておけよ……」
「はい……――」
そうして、ベッドに横たえられると、そばにベリアルお父様が座ってくれて、そっと私と手を繋いでくれた。
久しぶりに繋ぐお父様の手は暖かくて、とっても気持ちが良い。
(本当はずっとずっとこうしていたい……)
だけど、私は大人にならないといけないのだ。
うとうとしながら、私はお父様に声をかける。
「お父様の言うとおり……セラフィーは良い子にして、ちゃんと、お婿さんを選びますから…………」
「ああ、そうしてくれ――そうしたら、俺も安心して……――」
それ以上、瞼が重くて、私は何も言えなくなる。
「ああ、もう寝ちまったのか……セラフィー」
意識が遠のく中、ベリアルお父様がポツポツと口を開く。
「――魔王候補達が生まれてきた……それは、つまるところ、魔王の俺が――だが、あいつらになら、大事なお前を任せることができる。お前をちゃんと支える男がそばにいるんだって分かりさえすれば、そうしたら俺は安心して……」
安心して――?
(――なんで、お父様は私のお婿さん候補じゃないんだろう……次期魔王を選ぶため? それとも他に何か理由があるの?)
だけど、それ以上は何も考えられなくなる。
「だから、俺は……――おやすみ、俺の大事な愛娘セラフィー、良い夢見ろよ……」
お父様の優しい手の温かさを感じながら、私は幸せな眠りに就いたのだった。
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