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第6話:「トゥーリア西部」

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 次の日、康介達は朝から情報収集に奔走していた。
 王都は実に広い。
 まだ騎士団へ入隊していないため、行ける場所は限られているがそれでも広く感じる。
 道行く人全員に話しかければ移動など含めて3日は時間を潰せるだろう。

 康介達は一件の宿屋兼居酒屋に宿泊していた。
 騎士団へと外に出るのも近いという理由で選んでいる。
 その酒場で今日の情報交換だ。

「どうだった?」
「あぁ色々聞けたぜ」

 大輝が口を開くと康介がすぐに返した。
 遥も玲奈も頷いている。
 1日かけてそれぞれ情報を仕入れていた。

 全員が集めた情報をまとめていく。

 ・西の大地(通称トゥーリア西部)の出現モンスターは9-11レベル。

 ・時間帯ボスもいるが13以上じゃなきゃ無理だろう。
(正確には不明だが、今のお前じゃ無理だと言われた)

 ・ケムぺがいるのはトゥーリア西部に入って南西の監視所。

 ・最近ケムぺがモンスターが多いと嘆いていた。

 こんなものだ。
 レベルを12まで上げていたのは幸いだろう。
 大体のネトゲは適正レベルより少し上でないと苦戦を強いられるからだ。

 話をまとめると間違いなく洞窟奥でボスバトルが発生する。
 4人パーティでなおかつレベルは12。
 まず大丈夫だと思われるが、もう少しレベルを上げてもいいだろう。
 康介がそんな事を考えていると遥が口を開いた。

「もう少しレベル上げたいけど……この辺他の冒険者見ないから置いてかれてるのかな?」
「難しい……ですよね」

 遥に玲奈が同調する。
 確かに康介達は他の冒険者を殆ど見かけていない。
 もしかしたら他の拠点からのスタートの可能性もあるが……。

「うーん、まぁ十分に上げてるからそのまま行ってもいいかもしれないな」

 大輝の発言に康介も頷く。
 焦ってもあまり意味はないかもしれないが、レベルも上がっているならクリアに乗り出すべきだろう。
 こうして康介達はトゥーリア西部へと繰り出した。





 康介達は順調にトゥーリア西部を進むことが出来た。
 出てくるモンスターを極力倒しながら進んだため、さらにレベルも1ずつ上がった。
 1時間程歩くとトゥーリア西部監視所が見えてくる。

 その監視所の入り口に軽鎧で武装した男がため息をついている。
 頭の上には「!」マークも出ているので、彼がケペムで間違い無いだろう。
 康介達が近づくと、さらに大きなため息が聞こえてきた。

「こんばんわ。騎士団のクエストで参りました」

 大輝が声をかけるとケペムが一瞬喜んだ表情をしたがすぐに元に戻った。
 こういった顔芸がしっかり作り込まれてるのがこのゲームの凄さでもある。

「最近モンスターが活発でね。多分南にある洞窟から漏れてきてるんだ」

「なんでかって?モンスターが全部アンデットだからだよ。多分洞窟内にアンデットボスが現れたんだ」

「僕はここから動けないけど、誰か倒して欲しくてね」

 そこまで一気に話すとまたため息をつくケペム。
 これは強制イベントだ。
 ここで返事をするとクエストが進行するだろう。

「俺たちが行きますよ」
「本当かい?それならここを宿代わりにするといい。簡素な場所だけど寝れば体力の回復にもなるよ」

 ケペムがそう話すと宿屋のアイコンが出現した。
 監視所の中に入ると小部屋が多く寝るのには申し分ない広さだ。
 もう夜も深い。明日から本格的に洞窟探索に行くのがいいだろう。

 康介達はまた明日と話すと眠りについた。



 次の日から洞窟探索へと向かった。
 場所は監視所から歩いて1時間程。
 洞窟はすぐに見つかった。

 洞窟の名前は「腐乱の洞窟」だそうだ。
 いかにもアンデット御用達の場所であり、入り口からジメジメとした雰囲気が漂ってきている。

「湿気が多いと髪の毛が跳ねるんだよね」

 遥の余裕たっぷりな発言に全員が笑顔になる。
 洞窟とはいえ過度な緊張は敵になりかねない。
 チームのムードメーカーである遥の発言は全員の心を軽くした。

「よーし、いくぞ!」
「「「おー!」」」




 ◇




 腐乱の洞窟地下1F。
 階層も浅いせいか、出てくるモンスターも9レベルで手応えは殆どない。
 これならドンドン進んでも問題ないだろう。

 出てくるモンスターは案の定アンデット系だ。
 今はスケルトンとゾンビが多い。
 スケルトンが骨を持って殴りにくる姿はなかなか面白いものだ。

 ゾンビに関しては体力が多いのかスケルトンより手数を必要とした。
 攻撃は殴るか組みつくようだが、ヒットアンドアウェイの要領で駆逐していく。
 内部もそこまで広くないため、すぐに地下に降りる道を見つけた。

 地下2F。
 ここのモンスターも上とは代わり映えがない。
 康介達の連携はさらに磨かれており、玲奈の防御魔法と遥のエンチャントが活躍している。
 ポーションもあまり使わずに済んでいるのも大きい。

 さらに地下へ潜っていく。
 ネトゲでは地下階層を進めば進むほどモンスターの量もレベルも上がっていく。
 ここも例外ではない。
 6階層ぐらいからモンスターの数が目に見えて増えていた。

「おらぁ!」

 気合いと共にエンチャントの乗った剣を振り抜く康介。
 トドメを刺すと同時に振り返り次に備える。

「プロテクト!」

 玲奈は回復と補助だ。
 前線にいる大輝と康介に防御魔法を展開し、被ダメージを抑える。
 こまめな回復もしているため、余計なポーションも使わずに済む。

「ファイアーボール!」

 遥のファイアーボールは効果範囲が増えて固まったモンスターなら2、3体同時に攻撃ができる。
 康介と大輝の動きで敵をまとめ、一気に叩く寸法だ。
 この方法が出来るようになってから狩りの効率が飛躍的に上がっている。

「いやー、そろそろボス階層が近いのかな?」

 一通り倒し終わると大輝がため息と同時に口を開いた。
 ランダムポップで少し離れるとすぐにモンスターが生成される。
 先程倒したモンスターは10レベルだ。

「このクエストの一環なら次あたりでボスかもね」

 その言葉には康介が返した。
 モンスターレベルがクエスト必須レベルと近いならそろそろボスが出てくるだろう。
 今回は10レベルで受けられるクエスト。今のモンスターも10レベル。
 次のフロアでボスが出てもおかしくない。

「全員の持ち物と回復をしよう。MPも一緒に確認して、自然回復でもいいから満タン近くまで回復させる」

 大輝がそう話すと全員が確認作業に入る。
 康介も手持ちに回復薬とHP、MPゲージに目をやる。
 遥と玲奈のMPが少し減っていたが、10分も休憩すれば満タンになるだろう。


 しばらく休憩したのち階段を降り始めた。
 地下8階。先程とは打って変わって静かな場所だ。
 階段を降りるとまっすぐな道が続いており、その先には部屋の入り口が見える。

 念のためトラップがないか確認しながら進んだが特に何もなかった。
 つまりこの先はボスが待ち構えているのだろう。
 入り口から中の様子を伺うと、一匹のモンスターが佇んでいた。

「あれは……スケルトンナイトか?」

 右手に長剣を持ち左手に盾を持っている。
 先程まで戦ってきたスケルトンより一回り大きく、ボスであることを伺わせる。
 しかし動く気配はなく、ここで何かを待ち続けているらしい。
 その他にはモンスターの姿が見当たらない。

「康介、どう見る?」
「うーん、お約束なら俺たちが戦闘になると従者が出てくるパターンかな?」

 ボスなどは基本的に従者と一緒にいるはずだ。
 しかしその姿が見えないとなると、単体で非常に強力か戦闘中に従者を呼び出すかのどちらかだ。
 後衛がいきなり現れた従者に攻撃されないように気を付けなければならない。

「おーけー。んじゃ遥と玲奈はポップしたモンスターの位置を常に確認してくれ。俺がメイン盾としてヘイトを稼ぐから、康介は臨機応変に頼む」
「わかった」

 全員が目を合わせて作戦を確認する。
 さぁ、クエストボス攻略だ。
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