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第4話:「嘆きの森」

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 それから2日ほどみっちりレベル上げを行った。
 経験値効率は悪くなっているが、戦闘に対しての恐怖は薄れて来ている。
 しかし油断だけはしないように少しずつ前に進んでいる状態だ。

 レベルは7まで上がった。
 大輝は『シールドバッシュ』を覚えた。
 敵に対してのヘイト管理、そしてシールドで叩きつけることにより相手を2秒行動不能にできる。

 康介は『スラッシュ』を覚えた。
 上段から振り下ろされる一撃で、攻撃力を20%UPした状態でダメージを与える。
 リキャストタイムも3秒と使い勝手が良く、連発して攻撃すると殲滅力が上がった。

 遥は『ライトニング』と『アイスブロック』を覚えた。
 どれも初級魔法ではあるが、属性が増えたことにより相手の弱点を突けばより一層ダメージが出る。

 玲奈は元々あった『ヒール』の他に『ポイズンキュア』を覚えた。
 毒消しの効果を持ち、僅かながらHPも回復できる。

 4人は着実にレベルアップしていた。
 装備品も揃え、明日には森へ入れるだろう。
 いつもの酒場でご飯を食べていると、大輝が口を開いた。

「よーし!明日行こう!」
「そうだね。慎重に進んで、危なくなったら引き返そう」

 ダンジョンなどでは全滅を回避するため、何度か足を運ぶ必要がある。
 特に一度しかチャンスがないなら慎重にもあるだろう。
 まずは入り口からしっかりと攻略していかなければならない。

「んじゃまた明日な!」

 大輝が解散を告げ、一同は現実へと戻っていった。




 ◇




「おい誰だ。神経リンクを解除しなかった奴は」

 明るい部屋に6人ほどの男がパソコンに向かって何かの様子を見ている。
 その画面には名前や生息地、健康状態などが記されていた。

「も、申し訳ございません!神経リンクは全て解除済み。ナノマシンの影響もありません!」
「ふざけるな!!」

 立ち上がり状況報告をした男を、白衣を着た男が思いっきり殴り飛ばした。
 誰もがその状況に恐怖を覚えており、反抗や反論するものがいない。

「痛み、苦しみを味あわせるのはログイン不可にしてからだと言っているだろ!」
「ひっ」
「ここで暴動が起きてみろ!全員死刑になりたいのか!?」

 暴動が起きればこの屋敷から逃げ出されるかもしれない。
 そうなると今度は会社やこの場所まで調べられることになる。
 それだけはどうしても避けなければならない。
 権力者は全員知らぬ存ぜぬを繰り返すだろう。

「クズが。次のミスは許されない。全員細心の注意で仕事にあたれ!」

 白衣の男が部屋から出ていくと、小さくため息が部屋に漏れた。



 ◇




 始まりの街から歩いて20分。
 康介たちは嘆きの森へと到着した。
 その森は入り口に看板が立っており、丁寧にも注意書きまでされている。
『毒消し必須。力に自信なくば引き返せ』と。

 時間もあるが、森自体はそこまで暗いイメージはない。
 何人も冒険者が通っているのか、道が出来ている。
 森の方からは鳥などの鳴き声も聞こえ、意外にのどかな雰囲気だ。

「なんか……いいですねぇここ」

 玲奈はここの雰囲気が気に入っていた。
 全員が頷くと、大輝を先頭に森へと入っていく。


 ーーーーーー嘆きの森

 平均モンスターレベルは4-5。
 駆け出しの冒険者が最初の街でクエストをこなしていれば、すぐにでも通過は可能。
 時間別ボスにオークが生息しており、レベルは6。
 ドロップアイテムは『オークの肉』
 食用としても利用でき、売ればお金にもなる。
 しかしオークに会えるのは稀。

 出現モンスター
 ゴブリンLv4-5、ホーンラビットLv5、スライムLv4




 康介達はゆっくりと森に入っていった。
 初心者用の森なのか、モンスターは殆どが単体で生息しており、集団で襲われることはない。
 30分ぐらいかけて進んでいるが、まだまだ余裕そうだ。

 少し広めの場所に出た。
 そこにはモンスターも全くおらず、休憩スペースのようにも見える。
 康介達は一度そこで休憩を取ることにした。

 持ち運び用のバッグにはまだ20種類ぐらいしか入らない。
 そこから昼ごはんと水を取り出し分け合う。
 緊張感が少し解けているのか、先程までなかった笑顔が飛び出していた。



 休憩も終わりそこを出ようとした時、急に広場の空間が歪んだ。
 広間の中心部分がぐにゃりと歪み、次の瞬間にはモンスターが生成された。
 全員が振り向いたその先にはオーク……時間帯ボスだ。

 オークは康介達を見ると、持っていた棍棒を振り上げ突進して来た。
 不意打ち、バックアタック。
 その言葉が似合う状況であり、盾役の大輝は一番前にいた。

「玲奈!遥!!下がれ!」

 大輝が咄嗟に叫び前へ出る。
 康介も同時に動き、大輝のフォローへ回った。

 振り下ろされた棍棒を大輝がその場で踏ん張って受け止める。
 鈍い打撃音が響き、一瞬オークが硬直した。

「ブフォァァ!」

 しかし大輝が盾を振りかざし、開いた腹部へオークが蹴りを入れる。
 まともに食らった大輝が後ろへ吹き飛ばされた。

「玲奈は大輝の回復!遥はファイアボールで牽制してくれ!」
「「りょかい!」」

 康介がすぐに指示を出しオークの前に立ちふさがる。
 大輝を追っていたオークの目が康介に向いた。

 身長は180を下らないだろう。
 卑下た目と口がだらしなく開いている。

(デカイ……な)

 ただの180cmなら怯みもしなかっただろう。
 特筆すべきは足と腕。
 丸太のように分厚く、筋力が非常に高いことを伺わせる。

「ブファー!!」

 オークが大輝にしたように棍棒を振り下ろして来た。
 直線的な攻撃をなんとか右に避けてそのまま脇腹に攻撃をする。
 剣先がオークの脇にあたり、ダメージを与えた。

「ブファァ!!」

 その後も何度も攻撃を繰り出してくるオークの隙間を縫って攻撃を続ける康介。
 オークも遥の魔法と康介の攻撃を受け止め、かわしながら攻撃してくる。
 しかしオークのHPゲージはどんどん減っていき、残り1/3まで減らしている。

「ブファッ!?」

 遥が唱えていたファイアボールがオークの頭に命中。
 致命傷とはならなかったが、一瞬オークの動きを止めた。

(今だっ!!)

 仲間が作ってくれた隙を逃しはしない。
 康介が剣を水平にし、心臓部分へ突き立てる。
 肉を裂く音が聞こえ、オークの体を康介の剣が貫いた。

「やっ……」

 油断大敵。
 深々と突き刺さった剣を見た康介が倒したと考えた瞬間オークに反撃された。
 左腕で顔面を殴られ吹き飛ばされる。
 オークを貫いた剣は突き刺さったままだ。

「康介さん!!」

 玲奈が叫ぶ。
 遥のMPが連発により切れ、まだ撃てるほど回復していない。
 口から血を流したオーガがゆっくりと棍棒を振り上げる。

 康介は運悪く脳を揺らされていた。
 視界がぶれており、立つことも出来ない。
 ただ目の前にはオークが今にも棍棒を振り下ろさんと構えている。
(あと数秒あれば……)

 康介の考え虚しく、その棍棒が振り下ろされた。
 玲奈が目を瞑る。
 遥の魔法は間に合わない。
 康介も動けずダメージを覚悟した。

「うおおおお!!」

 その瞬間玲奈の隣で動けなかった大輝が飛び出してきた。
 盾を構えオークの棍棒を受け止める。
 最初と同じように鈍い音が鳴り響いた。

「すまん!回復が遅くなった!」

 康介が頭を振り自分の状態を確かめる。
 手は動く。足も動く。視界もさっきよりいい。
 すぐに立ち上がり、刺しっぱなしの剣の柄を握った。

「おおおおおお!!」

 さらに奥へ押し込む。
 剣がまた肉を裂く音がすると、オークのHPゲージから色がなくなった。
 目の前にいたオークが霧散し、その場に宝箱が落ちた。

「やっ……たぁぁぁぁ!」
「すごい!康介くんも大輝くんも凄いよ!!」

 遥が歓声をあげ、玲奈も喜んでいる。
 大輝と康介はその場に座り込んでしまった。

「なんだよあいつ……強すぎだろ」
「まったくだよ……大輝ありがとうな」
「いやこっちこそ」

 時間帯ボスは特性で能力が上がっている。
 同じレベル7でも、ボス特性によりパワーアップしていたのだろう。
 今回はなんとか倒せたが次はわからない。
 男2人はしっかりと兜の緒を締めようと誓った。

「ねーねー!宝箱開けよーよー」

 遥が宝箱を指差している。
 ドロップで宝箱が出るのは珍しく、普段ならそのままドロップ品が落ちるだけだ。
 4人で宝箱へと駆け寄る。

「さて、何が出るかな!」

 大輝が宝箱を開けると一本の剣が出てきた。
 それを手に取りじっと見て確認している。

「……康介、これは康介が持ってくれ」
「えっ?」

 ポイと投げられた剣を康介が受け取った。
 そのままよく見ると剣の説明文が浮かんでくる。

『☆ロングソード:鋼で出来た長剣。等級レア』

 アイテムには等級がある。
 康介が聞いたのはノーマルとコモン、レアだ。
 始まりの街周辺ではモンスターが装備を落としてもコモンまでしか手に入らなかった。

 レアになると何かしらの恩恵が手に入る。
 今回のロングソードにはSTR増加の効果が付与されており、攻撃重視の康介にはぴったりだ。

「俺が……いいのか?」
「トドメを刺したのも康介だしな」

 魔法職2人に剣は無縁だ。
 残るは大輝と康介だが、パーティの殲滅力を上げるためには康介が適任だろう。

「康介くんが使ってくれたらいいと思うな」
「んだなー!うちらじゃ使えないだろうし」

 装備品には装備可能レベルと必要ステータスがある。
 剣には必要STRがあるが、康介は余裕でクリアしていた。

「あ、ありがとう。大切に使うね」
「なーに!すぐに強いのが出て捨てることになるさ」

 MMORPGでは装備が新しくなれば前のを捨てる事は多い。
 それでも、ドロップアイテムを貰えるのは信頼関係がないと出来ない。
 康介も素直に喜んだ。

 その後少し休憩を挟みまた広場を出て歩き始めた。
 その後はモンスターに会うこともなく10分ほど歩くと、森から抜けることが出来た。
 森から抜けた先は平原であり、少し離れた場所に街が見える。

「よぉし!抜けたな!!」
「よかったー!」

 男2人がはしゃいで喜んでいる。
 初めての森は攻略できた。
 オークとの戦いも貴重な経験になり、パーティとしても成長しただろう。

「遠足は街に到着するまでが遠足ですよ?」

 玲奈が微笑みながらみんなに冗談を飛ばす。
 そう、まだ到着していないので油断してはいけないのだ。

「よーし!いくぞー!」

 4人は元気よく次の街へと向かっていった。
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