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戯れ合う様な口付けが熱を帯びて来て、このままでは望まない方向に流されてしまうと感じたクリスティナは、両の手でローレンの胸板を押した。
クリスティナの抵抗にローレンが僅かに眉を顰める。
「ろ、ローレン様、お話しをなさって。」
「ああ。」
何だそんな事かと云う風にローレンが答えた。
「何が知りたい。」
「ふ、フレデリック殿下の計画を、」
「どこまで。」
「最初から最後まで、」
「それを知ってどうする。」
「え?」
「引き返せなくなるぞ。」
「で、でも、私にも関係する事なのでしょう?」
「まあ、そうだな。」
「であれば、」
「聞いたら引き返せない。相手は殿下だ。覚悟は出来ているのか。」
「...」
「クリスティナ。私を頼るんだ。」
「え?」
「私を信じるんだ。出来るか?」
ローレンを信じるだなんて、一番信用ならない男を。
「お前を護ると誓おう。」
「本当に?」
「本当だ。ただし、」
ローレンはクリスティナの鼻先まで近寄って鮮やかな青い瞳で見つめる。
「対価はお前だ。生涯離れないと誓うんだ。」
クリスティナは、周囲の人間の多くが信用出来ないと思っていた。
王城の内側は魔物の棲家と同じで、信用する相手を間違えれば忽ち存在を消されてしまう。
ローレンもフレデリックもその筆頭にしか思えなかった。
けれども、知らずにはいられなかった。好奇心とかではなくて、あの学園での出来事から始まるクリスティナを取り巻く全ての出来事の裏側を知ってしまいたかった。
だから、
「誓います。」
「真(まこと)だな?」
「ええ。」
「お前の言葉で誓うんだ。」
「私は、生涯貴方から離れないと誓います。」
ローレンは満足気に目を細めた。
それがローレンの笑みなのだと気が付いて、間近に見るローレンの笑顔にクリスティナは動揺してしまった。
こんな顔は知らない。
「ああ、お前を生涯護ると誓おう。」
そう言ってローレンは、まるで婚姻式で神の御前で誓う様に、クリスティナに口付けた。
「全てが初めから繋がっていた訳では無い。ただ、殿下の目的は終始変わらなかった。
その目的と同時に、折々で別な計画を実行して来た結果が今だ。
殿下の最初の目的はクリスティナ、お前だ。そう驚くな。お前は自分の事を本当の意味で理解していない。何故、殿下がお前に興味を持ったか。
お前は生家を、領地を持たない王城勤めの子爵家と思うのか?違うだろう。
お前の父は誰に仕えている。兄は。
お前の父は陛下の側近だ。兄はその補佐だ。
陛下と宰相とお前の父親は、陛下が学園生の頃からの付き合いで、立太子と同時に側近となった事は知っているだろう。
子爵の倅がどうしてそれ程重用されるか。不思議か?大方、陛下に物怖じしないお前の父の気質を気に入ったんだろう。
だが一つ言えるのは、お前の父が先見の明に秀でているという事だ。流石は宰相の相棒だけある。」
クリスティナは息を詰めてローレンを見つめる。ローレンの話した事の大凡はクリスティナも理解していた。していたつもりであるが、父の評価がそこまでとは思っていなかった。
父も兄も陛下付きの文官として、陛下の執務室を仕事場にしている、そう理解していた。
「フレデリック殿下が初めに興味を抱いたのは、お前の兄だ。父親に付いて陛下の執務室にいる年上の少年に興味を抱いた。
お前の兄は幼い頃から変わらぬそうだな。のらりくらり飄々とすり抜けて相手にならない。幼い殿下は、さぞや悔しい思いをした事だろう。
だが、子爵に娘がいると知って、その一人が同じ年だと知って、殿下はお前と云う存在を意識し始めた。
そこからはお前も知っているだろう。学園では殿下にはアランと私、騎士団長の息子が付いていた。そしてお前も同じ学び舎にいた。」
高貴な集団であるから、クリスティナは彼等に関わり合わない様に遠巻きにみていたのだ。
「どうして殿下がお前を気に入ったのか。さあ、殿下は決して内心を語らない。私には殿下の心の内は解らない。
だが、殿下が学園へ入学した当初から、お前の事を注視していたのは分かった。」
そこまで大人しく聴いていたクリスティナは、思わず言葉を挟んでしまう。
「ですが、殿下には婚約者様がいらっしゃいます。」
「ああ、マリアンネ公爵令嬢か。殿下とは生まれながらの婚約者同士だ。」
フレデリックにはマリアンネ嬢と云う歴きとした婚約者がいる。そして彼等は、この世に生を受けたその日から婚姻が決められていた間柄にある。
先に生まれたのはマリアンネ嬢で、その僅かひと月後にフレデリックが生まれている。
「だが殿下はお前を欲した。学園生の内から。」
「真逆そんな事は、」
「ふっ、知らなかったろう。」
「そんな筈は、学園ではお声掛け頂いた事すら有りませんでしたのに、」
「お前は我々には近寄らなかったからな。どうしてやろうかと考えたんだろう。それで、殿下は最初の計画を実行した。そしてまんまと仕返しされた。」
「え?」
ローレンは一体何を言っているのだろう。
クリスティナには高貴な集団と接触した記憶が無い。あのローレンに暴かれた日以外は。
殿下とは、王城に出仕してテレーゼに仕える様になってから間近に接する様になったのだ。
「あの日、あの物品庫に来るのは本来マリアンネだった。」
「何を、ローレン様、何を言っているの?!」
「何を?真実を言っている。殿下はマリアンネを汚す事にした。そうして君を得ようと企てた。汚す役は私だ。結果は、君が私に汚された。」
あの初夏の夕暮れが目の前に広がる。
窓から見えた茜色の空。熱を孕んだ空気。
燦めく白金の髪。鮮やかな青。
「ローレン様、お願い、嘘だと言って!そんな、そんな、そんなことって、」
「クリスティナ。殿下はマリアンネに負けたんだ。君を得る機会を失った。そうして私が君を得た。君を得られた。」
呆然とするクリスティナをローレンは固く抱き締めた。クリスティナの頭に頬を寄せて、もう一度「君を得られたんだ」そう呟いた。
クリスティナの抵抗にローレンが僅かに眉を顰める。
「ろ、ローレン様、お話しをなさって。」
「ああ。」
何だそんな事かと云う風にローレンが答えた。
「何が知りたい。」
「ふ、フレデリック殿下の計画を、」
「どこまで。」
「最初から最後まで、」
「それを知ってどうする。」
「え?」
「引き返せなくなるぞ。」
「で、でも、私にも関係する事なのでしょう?」
「まあ、そうだな。」
「であれば、」
「聞いたら引き返せない。相手は殿下だ。覚悟は出来ているのか。」
「...」
「クリスティナ。私を頼るんだ。」
「え?」
「私を信じるんだ。出来るか?」
ローレンを信じるだなんて、一番信用ならない男を。
「お前を護ると誓おう。」
「本当に?」
「本当だ。ただし、」
ローレンはクリスティナの鼻先まで近寄って鮮やかな青い瞳で見つめる。
「対価はお前だ。生涯離れないと誓うんだ。」
クリスティナは、周囲の人間の多くが信用出来ないと思っていた。
王城の内側は魔物の棲家と同じで、信用する相手を間違えれば忽ち存在を消されてしまう。
ローレンもフレデリックもその筆頭にしか思えなかった。
けれども、知らずにはいられなかった。好奇心とかではなくて、あの学園での出来事から始まるクリスティナを取り巻く全ての出来事の裏側を知ってしまいたかった。
だから、
「誓います。」
「真(まこと)だな?」
「ええ。」
「お前の言葉で誓うんだ。」
「私は、生涯貴方から離れないと誓います。」
ローレンは満足気に目を細めた。
それがローレンの笑みなのだと気が付いて、間近に見るローレンの笑顔にクリスティナは動揺してしまった。
こんな顔は知らない。
「ああ、お前を生涯護ると誓おう。」
そう言ってローレンは、まるで婚姻式で神の御前で誓う様に、クリスティナに口付けた。
「全てが初めから繋がっていた訳では無い。ただ、殿下の目的は終始変わらなかった。
その目的と同時に、折々で別な計画を実行して来た結果が今だ。
殿下の最初の目的はクリスティナ、お前だ。そう驚くな。お前は自分の事を本当の意味で理解していない。何故、殿下がお前に興味を持ったか。
お前は生家を、領地を持たない王城勤めの子爵家と思うのか?違うだろう。
お前の父は誰に仕えている。兄は。
お前の父は陛下の側近だ。兄はその補佐だ。
陛下と宰相とお前の父親は、陛下が学園生の頃からの付き合いで、立太子と同時に側近となった事は知っているだろう。
子爵の倅がどうしてそれ程重用されるか。不思議か?大方、陛下に物怖じしないお前の父の気質を気に入ったんだろう。
だが一つ言えるのは、お前の父が先見の明に秀でているという事だ。流石は宰相の相棒だけある。」
クリスティナは息を詰めてローレンを見つめる。ローレンの話した事の大凡はクリスティナも理解していた。していたつもりであるが、父の評価がそこまでとは思っていなかった。
父も兄も陛下付きの文官として、陛下の執務室を仕事場にしている、そう理解していた。
「フレデリック殿下が初めに興味を抱いたのは、お前の兄だ。父親に付いて陛下の執務室にいる年上の少年に興味を抱いた。
お前の兄は幼い頃から変わらぬそうだな。のらりくらり飄々とすり抜けて相手にならない。幼い殿下は、さぞや悔しい思いをした事だろう。
だが、子爵に娘がいると知って、その一人が同じ年だと知って、殿下はお前と云う存在を意識し始めた。
そこからはお前も知っているだろう。学園では殿下にはアランと私、騎士団長の息子が付いていた。そしてお前も同じ学び舎にいた。」
高貴な集団であるから、クリスティナは彼等に関わり合わない様に遠巻きにみていたのだ。
「どうして殿下がお前を気に入ったのか。さあ、殿下は決して内心を語らない。私には殿下の心の内は解らない。
だが、殿下が学園へ入学した当初から、お前の事を注視していたのは分かった。」
そこまで大人しく聴いていたクリスティナは、思わず言葉を挟んでしまう。
「ですが、殿下には婚約者様がいらっしゃいます。」
「ああ、マリアンネ公爵令嬢か。殿下とは生まれながらの婚約者同士だ。」
フレデリックにはマリアンネ嬢と云う歴きとした婚約者がいる。そして彼等は、この世に生を受けたその日から婚姻が決められていた間柄にある。
先に生まれたのはマリアンネ嬢で、その僅かひと月後にフレデリックが生まれている。
「だが殿下はお前を欲した。学園生の内から。」
「真逆そんな事は、」
「ふっ、知らなかったろう。」
「そんな筈は、学園ではお声掛け頂いた事すら有りませんでしたのに、」
「お前は我々には近寄らなかったからな。どうしてやろうかと考えたんだろう。それで、殿下は最初の計画を実行した。そしてまんまと仕返しされた。」
「え?」
ローレンは一体何を言っているのだろう。
クリスティナには高貴な集団と接触した記憶が無い。あのローレンに暴かれた日以外は。
殿下とは、王城に出仕してテレーゼに仕える様になってから間近に接する様になったのだ。
「あの日、あの物品庫に来るのは本来マリアンネだった。」
「何を、ローレン様、何を言っているの?!」
「何を?真実を言っている。殿下はマリアンネを汚す事にした。そうして君を得ようと企てた。汚す役は私だ。結果は、君が私に汚された。」
あの初夏の夕暮れが目の前に広がる。
窓から見えた茜色の空。熱を孕んだ空気。
燦めく白金の髪。鮮やかな青。
「ローレン様、お願い、嘘だと言って!そんな、そんな、そんなことって、」
「クリスティナ。殿下はマリアンネに負けたんだ。君を得る機会を失った。そうして私が君を得た。君を得られた。」
呆然とするクリスティナをローレンは固く抱き締めた。クリスティナの頭に頬を寄せて、もう一度「君を得られたんだ」そう呟いた。
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