令嬢スロート

桃井すもも

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婚約者S

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麗しい美丈夫さん。お疲れ様ね。

こんな抜けるような青空のお天気に恵まれた日に、私などとお茶をする。

胸中、退屈極まりないことでしょう。

好みでもない女とお茶を飲まねばならないなんて。修行。

「スロート嬢。」

穏やかな温かみのある声が良いわね。
素敵な方だもの、引く手数多な筈よ。こんな処に居ずとも。

「良い天気だね。」

仰る通り。でも、もう少し会話には捻りが必要ね。

喩え私が貴方にとっての道具だとしても。

貴方へ潤沢な資金と爵位を齎すツールだとしても。

殿方は、財と名誉が己の価値と思っている。令嬢など、ストローだと思ってる。
生家から金銭と名誉を吸い取る媒体だと。


私はスロート。ストローではないわ。

「スロート嬢。」
何でしょう。

「邸の庭が美しいそうだね。良ければ拝見しても?」

よろしゅうございます。ご案内致しましょう。

指先を軽く握るだけのスマートなエスコート。完璧。

時折見下ろす優しげな眼差し。エクセレント。

眩しい金髪もビリジアンの碧眼も、非の打ち所が無い美丈夫。

完璧でエクセレントな美丈夫が、私にここまで親切なのは、全て全て貴方自身の為。
私を通して貴方の価値を高める為。

令嬢スロート、分かっているのよ。
これが政略なのだということを。
貴方から愛など得ることの無い、愛の無い契約なのだと。




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