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決して感情的な話しをしたいと思った訳ではない。
自分が傷付いていた事を認めたコレットであったが、それを感情に任せてエドガーを責めたいと思ってはいなかった。
ただもう、終わらせたかった。
この馬鹿馬鹿しい関係を終わりにしたかった。
あの夜会の風景が日常的なものだとしたら、何も理解していなかったのはコレット唯一人であり、伯爵家を取り巻く貴族家たちは、とうに夫妻の関係の破綻と未亡人こそが真の妻である事実を認めていた事になる。
未亡人に寄り添い腰を抱き寄せて、穏やかな笑顔を浮かべ歓談していたエドガーは、真の妻である未亡人をパートナーに、これまでもこれからも貴族の世界で生きて行く。
そこには既にコレットの存在は無く、コレットにしても夫人の地位にしがみつきたい訳でも無い。
僅か四年ではあったが、二人の婚姻の事実を認めて、コレットに僅かでも過去の妻として温情を示してくれるのなら、コレットに不服は無いのだ。
コレットが後継を産めなかった事実とエドガーの不貞の事実とを相殺して、正当な関係で離縁を認めて欲しい。
ただその一点を率直に伝えたかった。
泣いて縋って愛を乞う訳では無いのだと解って欲しい。
エドガーが望むのであれば直ぐにでも邸を出るし、伯爵家の財産の譲渡を要求する気もない。
夫人の個人資産として与えられた預貯金のみを譲って貰えれば、後の人生はコレットが自分自身で責任を持つのだと分かって欲しかった。
至極冷静に話したつもりであった。
「何を馬鹿な事を言っているんだ!可怪しな事を言うんじゃない!」
だから、エドガーが激しい拒否の感情を表した時に、驚くと同時にどこで誤解を生んでしまったのだろうと記憶を辿った。
コレットが自分の主張を正確に伝えられず、エドガーにとって不利な条件を提示したと誤解させたのだと思った。
「旦那様、私は貴方と貴方の愛する人との仲を責めているのではございません、ただ「何を訳の分からない事を言っているんだ!」
こんなに激昂する夫を初めて見た。
コレットは失敗したのだと悔やんだ。
真逆、コレットが二人の関係に気付いていないと思っていたのか。
今迄、一度も愛人との関係を責めた事など無かったではないか。
記憶の限り、皮肉めいた事を口にした事も無い。なのに、
「何も要らないと申しております。もし、もしお許し頂けるなら私名義の預金のみをお譲り頂けれは、ご迷惑は「しつこい!」
「何度も言わせるな。その必要は無い。金など好きに使えば良い、君の自由だ!いちいち私の許可など取らずともよい!」
「旦那様!」
感情の昂ぶりを抑えられなかったコレットが悪かったのか。
「離縁をしたいと申しているのです!」
「私は、お金が欲しいと言っているのではないのです!ここを出たいのです。貴方は愛する方とご一緒になれば、」
よろしいではないですかと、最後まで言い切れずに直後、一瞬視界が揺れてチカチカと光が瞬いて、何が起きたのか理解が及ばなかった。
左の頬が熱を感じた先から痛みとなって酷く痺れた。そこで漸く頬を張られたのだと気が付いた。
この人生で、生まれてこの方、誰かに頬を張られたことなど、只の一度も経験した事が無かった。
初めての痛みに息が震えた。
真逆、夫から暴力を受けるなんて、
驚きとショックと痛みと、どれがコレットを追い詰めたのか、もう理解出来なかった。
自分が傷付いていた事を認めたコレットであったが、それを感情に任せてエドガーを責めたいと思ってはいなかった。
ただもう、終わらせたかった。
この馬鹿馬鹿しい関係を終わりにしたかった。
あの夜会の風景が日常的なものだとしたら、何も理解していなかったのはコレット唯一人であり、伯爵家を取り巻く貴族家たちは、とうに夫妻の関係の破綻と未亡人こそが真の妻である事実を認めていた事になる。
未亡人に寄り添い腰を抱き寄せて、穏やかな笑顔を浮かべ歓談していたエドガーは、真の妻である未亡人をパートナーに、これまでもこれからも貴族の世界で生きて行く。
そこには既にコレットの存在は無く、コレットにしても夫人の地位にしがみつきたい訳でも無い。
僅か四年ではあったが、二人の婚姻の事実を認めて、コレットに僅かでも過去の妻として温情を示してくれるのなら、コレットに不服は無いのだ。
コレットが後継を産めなかった事実とエドガーの不貞の事実とを相殺して、正当な関係で離縁を認めて欲しい。
ただその一点を率直に伝えたかった。
泣いて縋って愛を乞う訳では無いのだと解って欲しい。
エドガーが望むのであれば直ぐにでも邸を出るし、伯爵家の財産の譲渡を要求する気もない。
夫人の個人資産として与えられた預貯金のみを譲って貰えれば、後の人生はコレットが自分自身で責任を持つのだと分かって欲しかった。
至極冷静に話したつもりであった。
「何を馬鹿な事を言っているんだ!可怪しな事を言うんじゃない!」
だから、エドガーが激しい拒否の感情を表した時に、驚くと同時にどこで誤解を生んでしまったのだろうと記憶を辿った。
コレットが自分の主張を正確に伝えられず、エドガーにとって不利な条件を提示したと誤解させたのだと思った。
「旦那様、私は貴方と貴方の愛する人との仲を責めているのではございません、ただ「何を訳の分からない事を言っているんだ!」
こんなに激昂する夫を初めて見た。
コレットは失敗したのだと悔やんだ。
真逆、コレットが二人の関係に気付いていないと思っていたのか。
今迄、一度も愛人との関係を責めた事など無かったではないか。
記憶の限り、皮肉めいた事を口にした事も無い。なのに、
「何も要らないと申しております。もし、もしお許し頂けるなら私名義の預金のみをお譲り頂けれは、ご迷惑は「しつこい!」
「何度も言わせるな。その必要は無い。金など好きに使えば良い、君の自由だ!いちいち私の許可など取らずともよい!」
「旦那様!」
感情の昂ぶりを抑えられなかったコレットが悪かったのか。
「離縁をしたいと申しているのです!」
「私は、お金が欲しいと言っているのではないのです!ここを出たいのです。貴方は愛する方とご一緒になれば、」
よろしいではないですかと、最後まで言い切れずに直後、一瞬視界が揺れてチカチカと光が瞬いて、何が起きたのか理解が及ばなかった。
左の頬が熱を感じた先から痛みとなって酷く痺れた。そこで漸く頬を張られたのだと気が付いた。
この人生で、生まれてこの方、誰かに頬を張られたことなど、只の一度も経験した事が無かった。
初めての痛みに息が震えた。
真逆、夫から暴力を受けるなんて、
驚きとショックと痛みと、どれがコレットを追い詰めたのか、もう理解出来なかった。
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