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社交のシーズンも終わりを迎える頃、エドガーから夜会に同伴するようにと告げられた。

何時かの様な直前の命ではなく、衣装もエドガーと併せて新調するらしい。

準備されるものにコレットが口出しも出来ないのだから、そのまま任せた。

正直、もう社交は面倒であった。
噂の夫婦に未亡人と、十把一絡げに絡められて奇異の視線で見られるのにも、いい加減辟易としていた。
夫が望むならいつもの様に未亡人を伴って出席してもらっても良いとさえ思っていた。 
一人邸に残って、これからの新しい未来について思いを馳せるほうが余程幸福を感じられるだろう。

「奥様。」

侍女に声を掛けられて思案に沈んだ思考が浮き上がる。

「まあ、綺麗!」
「ヨハンが奥様へと。」
「嬉しいわ。きっと素敵な髪飾りになるわね。ヨハンにお礼を伝えて頂戴。」

宝石類の装飾品が無い訳ではない。
前伯爵夫人の残したものもあるし、夫に頼めば百貨店から直ぐにでも用意されるだろう。
だが、コレットはもうこれ以上、伯爵家の物を身に纏いたいとは思わなかった。
伯爵夫人としての体(てい)を自分が保てていないことは疾(と)うに自覚していた。

子を成していたら違ったのだろうか。
結局そこに帰結するも、もし子がいたとして、果たしてエドガーはコレットを愛しただろうか。
子が在りながら未亡人に心を移されたなら。そうであれば、きっと我が子は今のコレットと同様に、あの奇異の目に晒されて悲しい記憶と共に成長したかもしれない。

起こってもいない事なのに、思考はどこまでも深く沈み込み、最悪のシナリオばかり選び出す。
この二・三年はそんな事の連続で、コレットはもう自分の感情が擦り切れてしまっていると感じていた。

伯爵家も夫も生家も貴族も、貴族である自分自身も、全部全部捨て去ってしまいたかった。

僅かな季節に花を咲かせて盛りを過ぎたら枯れていく花は、人間に比べて余程潔いと思った。

自分の身から伯爵家の息の掛かった物を全て取り去って、裸のまま、薄ら金色のくすんだ髪に花だけを飾っていたかった。
絵本の裸の王様のように、裸の伯爵夫人にはそれが相応しいと思った。

「奥様、大変美しゅう御座います。」

庭師のヨハンが切り出してくれた花を髪に飾り終えて、侍女が声を掛けてくれた。

この邸の使用人達は、皆、心根が温かく、生家にいた頃よりも余程心地良く過ごさせてもらっている。

今も鏡を持ちながらコレットに髪の具合を見せてくれている侍女に、彼女達の心遣いのお蔭で美しく装われているのだと感謝した。

「有難う。本当に綺麗な花ね。こんなはっきりしない髪にも良く似合ってくれて。嬉しいわ。」

それからの席を立ってエドカーの待つホールヘ向かった。

この夜会が終わればシーズンも残り僅か。
そう思うだけで、深く息が出来るような気がした。





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