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猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (26)

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オレとミサはエレベーターに乗り、しばらく下に向かって降りていた。
いや、ここは空間自体がゆがんでいるから私達が下に行っていると思っているだけで、実際は上に行っているのかもしれない。結局このエレベーターはどの空間に出るかわからないのだ。

しばらくすると、エレベーターはピンポンという音とともに目的の階にたどりついた事を示す。
エレベーターのドアが開く。

そのときだった。

ドアが開いてすぐ見えたのが、ドアの前を塞ぐかのごとく立ちはだかる、一体のロボットがいる。そのロボットは明らかに量産型のものとは違い、独特の形状をしていて、それからはとてつもなくおそろしいものを感じた。



オレはそれを認識してすぐ、ロボットに向けて跳び蹴りを食らわせた。ロボットは流石に横に倒れてしまった。
オレははエレベーターから出て、ロボットに向けて銃口を向ける。

するとロボットはすぐに立ち上がり、腕についている刀をオレに向けて突く。

だがオレはそれを横に避け、またもう一発跳び蹴りを食らわせようとする。

するとロボットは突然消え、オレの背後にワープした。

ヤバい!!!

銃弾がロボットの刀にぶつかり、なんとか致命傷は避ける事ができた。だがロボットの刀は早く、オレの肩を浅く切ってしまい、肩から血が飛び出した。肩にとてつもない痛みと熱が走ったが、それどころではないので、もう片方の腕で一時的におさえつける事しかできなかった。
「クソッ...!いってえ...!」

ロボットはオレに向かって無慈悲にも追撃をくらわせようとしている。
だがオレはそれを避け、ロボットに向け銃を構える。

そのとき、急にエレベーターの外の空間が広がり、オレとロボットの距離も遠くなった。
ロボットは走りだそうとしているのか、クラウチングスタートの構えをとる。
このロボットはとてつもなく素早く、人間ではその素早さに対応できない。これをくらえば大惨事だろうな...
だがどうするよー...ここは一本道だし、ロボットはオレに向かって今にも走りだそうとしている。
ロボットは走りだし、少しづつスピードを上げて接近する。
オレはダメ押しでもいいと蹴りの姿勢をつけて待つ。もう相打ちでもいいから、ミサが逃げる隙を作りたかった。
するとオレの後ろの空間が突然広がり、後ろに穴が開いた。2メートル程段差があり、穴の向こうには何があるかわからない。
オレは一か八かで急いでその段差を飛び降りる。穴の向こうの下の空間は、不幸中の幸いというべきか、先程いた空間よりかは広い空間が広がっていた。
オレは再び走り出した。
ロボットは、穴から降りられずに上の階の壁にぶつかり、めりこんでいた。
リディグが言ってたロボット、すぃらあぜろぜろすりーとやらはこいつのことで、おそらくこのロボットはものすごく速く走ることはできても、それは直進的に走るだけの話であって、上とか下の立体的で俊敏な動きとか、急な方向転換とかはできねーみたいだな...
そうと決まれば話は別であった。

ロボットは壁を押し、なんとかめり込んだ所から抜け出してから穴からこの階に降りてきた。

だがオレは、ロボットが壁から抜け出そうと四苦八苦している間に、なんとか20メートルほどの距離をあけることができた。

ロボットは一瞬でオレに追いつき、オレに斬撃をくらわせようとする。

オレはそれを横方向によけ、ロボットがオレを通りすぎている間に、オレはロボットの背後にまわって足を振りかざし、蹴りをくらわせようとした。

だがロボットはそれに気づいたのか、それをすぐに避け、オレに腕の刀をふるった。

しかし、ロボットの刀にまたしても銃弾がぶつかり、刀の軌道はオレをかすった。

ミサが背後から援護射撃を行ってくれているのだ。

ロボットはミサめがけて走りだす。

オレはそれを止めようとするが、ロボットの速さにはとうてい及ばない。

だがミサはそれも見込んでいたらしく、横方向によけ、さらに方向転換をしてにげ続けた。だがその先は柵になっており、下は崖のように広がっていた。落ちたらひとたまりもないだろう。

「ミサ!!!やめろ!!!」
私は必死にそう叫んだ。だがミサは走り続ける。彼女は一体何を考えているのだろう。

すると柵の下の空間はゆがみ、急に足場が形成されたように下方3メートル、前方4メートルほど離れた空間に現れた。ミサはパイプにつかまり、その勢いで向こうの空間まで跳んだ。

ロボットとミサの間には、崖が隔てており、ロボットも容易には近づけそうではなかった。
だがロボットは再びクラウチングスタートの構えをとり、ミサ向かって走り出す。

だがオレはこのチャンスを逃すまいと、助走をつけてまだ加速途中のロボットに横から蹴りをかました。
ロボットは勢いあまって宙に浮き、そのまま飛ばされ転がってしまった。ひどい飛ばされようで、人間ならやられてそうなほどだった。
だがロボットは再び立ち上がった。結局少しだけ表面に傷がついただけであった。
ロボットは再びオレ向かって走りだす。

オレは横方向に避け、また蹴りをくらわせようとしたが、それも学習済みであったのか。それをもう片方の腕の刀で受け止め、もう片方の腕の刀でオレを貫こうとする。

ヤバい

オレが命の危険を感知した瞬間だった。

先程まで離れた空間にいたミサが、再びここにいて、ロボットの刀を撃って刀の軌道を変えていた。

彼女はワープしていたのだ。

彼女はオレとは違いおそらく頭脳で生き残ってきたほうなのだろう。もうすでにここの空間の特徴を把握できているのだ。

おそらく向こうにワープできる空間を見つけ、そこからここへワープしてきたのだろう。

オレは走り出し、また柵の向こうの空間に逃げようとする。だが、その先の空間には、もう飛び移れそうな足場は存在していなかった。おそらくまた空間が歪んだのだろう。

もうこうなったらヤケクソしかねーな...

おそらくこの柵の向こうは空間が不安定なのだろう。ここは広いが、刀の軌道を避けたり素早いロボットから逃げるだけでも、体力を大幅にそがれてしまう。

実際オレは体力をある程度温存はできていたが、ミサは息が荒くなっていた。せめておとりになってロボットと共に落ちればミサは助かるだろう。

オレは跳んだ。

するとオレは急に先程いた場所とは全く別の場所にワープした。

ロボットもそれに続いてその場所にワープしてきた。

その空間はまたしても一本道で、鉄網の橋になっており、2つの分岐した道があった。
両方の道は、ともにノイズに覆われた歪んだ空間が阻んでいる。
ひとつは直進、もうひとつの道は右折した先であった。

なんとなく空間が歪んでるところがどんな感じなのかわかってきた。
空間が歪んでいる所は文字通りその地点の物体や建造物がゆがんで見えたり、機械のもにたーとやらによく出てくる四角いノイズに覆われていたりする。
オレはリディグみたいに理論的に考える事は苦手だが、戦いで大事とされているその場による柔軟な判断や、敵を観察する観察眼、戦闘中の周囲の環境と地形を把握し、それを利用する手段を瞬時に判断する力に関しては自信があった。

ロボットはとてつもない速さで追いかけてくる。

この道は一本道だろーし、このまままっすぐいけばやられちまうだろーな。
ならいっそ対角線上にジャンプして右の道に飛び移るのはどうだろうか。
道も短く、落ちてしまうリスクもあるが、まっすぐ走ってロボットに追いつかれ切り刻まれてしまうよりかはよっぽどマシだ。
オレは柵の上に乗り、向こうの橋に向かってジャンプした。
空中で、底が見えない下の空間を見て一瞬おそろしく思ったが、なんとか着地することができた。
ノイズに向かって走り、それを抜けると再びワープし別の空間に移った。

今回はワープ地点が空中であったためか、オレは宙に放りだされ、着地できる地点を探した。
下方3メートル前方2メートルほどの地点にまた橋があったので、それに向かって体を向け、勢いのまま受け身をとって転がり、再びまたその勢いで地面を蹴って走り出した。

おそらくワープする前の速さが衰えることなくそのままワープ先の空間にも反映されているんだろーな…
ならそのままその勢いを利用して走るスピードを上げてしまえば、より素早く動けるだろう。ならそれを利用するまでだ。

ロボットは右方4メートル、後方20メートルほど離れた、別の橋同士を崖で隔てた空間でオレを追いかけていた。
ロボットはものすごい速さでオレに接近し、その勢いのままオレのいる鉄網の橋まで飛んでくる。

ロボットはオレを斬りつけようとする。
オレはまた横に避け、橋と橋の間にある空間の歪みに向かって飛び込んだ。
そしてそれを抜けると、足場が出現し、オレはそのまま受け身をとり、その勢いのまま再び走り出す。

ロボットはまた別の橋へとワープし、またオレのいる橋へとジャンプしようとした。
だがミサはその上の橋からジャンプしてロボットの背後に着地し、銃弾を放った。
いくら素早いロボットでも想定外だったせいか、避けても頭部分をかすり、少し削れたのかその部分はビリビリと電流が漏れていた。

だがロボットはミサに狙いを定め、斬りかかろうとする。ミサはそれをなんとか避け、オレのいる橋に向かって跳んだ。

ロボットもそれに続いて着地し、構えをとって再び走り出そうとする。
オレはロボットが走り出す前に蹴りをくらわせようとしたが、それは腕の刀で防がれてしまった。
ットは下の空間に落ちてしまった。

オレはその瞬間油断してしまい、ロボットが背後にワープしている事に気づかなかった。
「イリーア!後ろ!」
ミサの叫びと銃の発砲音でオレはやっと気づき、よけようとするも、オレは脚のももを浅く切られてしまった。
オレの脚が熱と痛みを帯び、囚人服が血で濡れる。
だが、ミサの弾丸がロボットを直撃したのか、ロボットの脚も少しだが削れ、またビリビリと電流を漏らす。

これならいける...!
この足場や橋が複雑に絡み歪んだ空間では、むしろオレらのほうが有利かもしれねー
素早く攻撃を避け、そしてもう一人がロボットに攻撃を当てる。2対1の今ならそれもできるし、しかも攻撃を避けた後別の空間に移動してしまえば、どこに行くのか、どんな空間が生成されるのかの法則性はわからないので運任せにはなってしまうが、逆をいえば、一気にロボットの背後にまわる事ができる可能性だってゼロではない。

ミサは再び橋から飛び降り、別の空間に移動する。オレもそれに続いて飛び降りた。
すると先程まで下方向に飛び降りていたのに、空中の歪みの地点を抜けワープすると、飛ばされた方向が逆になり、落ちていた勢いのまま一気に上方向に放り出される。

ミサは5メートルほど上に飛んだ後、パイプにつかまり、そのまま一気に更に2メートルほど上にある橋に飛び、着地してそのまま走り出す。

オレもそれに続いて、同じようにして上の橋に乗り、走りだした。

その瞬間、急にロボットは上から落ちてきて、受け身をとり、一気にミサ狙い走り始める。
「ミサ!逃げろ!」
ミサが気づいたころには少し遅かったのか、ミサの胴体を刀がかすり、そこから血が噴き出した。
「ミサ!!!」
オレはそう叫ぶ事しかできなかった。ミサは傷を抑え、再び走り出す。
ロボットは無慈悲にもミサを狙って接近し、再び腕の刀を振るう。だがオレは別方向からロボットに一気に接近し、背後から蹴りをくらわせる。

ロボットは直撃し、吹き飛ばされてしまった。
ロボットはまた橋から落ち、別の空間に移動する。
今度はどこいったんだー...?

すると上から気配がしたかと思えば、頭上から一気にロボットが落ちてきて、橋は大きく揺れた。
なんとか気配を感じることができたので、落ちてきそうな所からは10メートルほど離れることができた。

このままではロボットにやられてしまう。
もしこのロボットがこの要塞の空間の情報を把握していれば、それを知らねーオレらにとっては圧倒的に不利だ。
長期戦になんてもちこまれたら体力切れでやられてしまうだろう。
それなら一か八か、どこへ移動するかもわからない空間に突っ込みながら短期戦に持ち込むしか活路はないだろう。

ロボットは走り出す。
オレはロボットの攻撃を横方向によけ、方向転換をして3メートルほど離れた他の橋へ跳び、その橋の行き止まりの先の、空中にある空間の歪みを目指した。

案の定ロボットはオレを追って、オレのいる橋へと飛び移り、今にも斬りかからんとする。
ロボットの刀の軌道がミサの弾丸によってずれ、オレはそれを避けた。
さらに10メートル前へ走り、その勢いのまま橋の行き止まりの柵に登り、一気にジャンプでそこから前方5メートル、下方2メートルにある歪みへと飛び込む。

するとオレは運よくロボットの頭上の空間へとワープできた。
今だ
オレはロボットに向けて跳び蹴りをかました。
ロボットの胴体をオレの脚がぶつかったまま、ロボットがいた橋は壊れ、ロボットはその橋のがれきと共に10メートルほど下の足場に落ちた。オレはロボットとがれきがクッションになったのか、助かった。

ロボットはもう動かないかと思ったが、また立ち上がった。
白メッキの塗装が剥がれた銀の部分からは電流がビリビリと漏れ、外装が一部破損したのか大きくはないが少し穴が開いたところがぽつぽつあったり、ヒビができたりしていた。
だが、オレでもここまで追い詰めることができるとは思っていなかった。

そんな思いもつかの間、ロボットはものすごい勢いでまたオレに斬りかかろうとする。
この足場は狭く、一方通行の袋小路になっていた。
この足場の下にも広く空間が広がっていたが、空間の歪みが見えたのは20メートル以上下の空間であり、そこに飛び込めば、ワープ又は空間形成できたとしても、勢いが強すぎてオレはぶつかる衝撃でやられてしまうだろう。
オレの身体も疲弊し、動きが鈍くなっていた。

ミサ横方向に離れた橋から泣きそうな顔のまま銃弾を撃ち続けている。
「イリーア!逃げてえ!!!」
ミサはそう叫びながらただ射程外で届きそうもない銃弾を飛ばし続けていた。

オレは命が終わる覚悟をした。

その時だった。

走ってくるロボットの動きが急に人間の走るスピードほどまで落ち、周りの空気の流れも遅くなる。
周りの空間の時間が遅くなったのだ。

オレはすかさずロボットの斬撃をよけ、その勢いのまま橋の柵につかまり、ひょいとその勢いのままロボットの背後にまわって蹴りをかます。

ロボットはものすごい勢いで吹き飛ばされる。
オレは追撃をくらわせようと元いた橋からダメ元で飛び移ろうとする。
こうなったらヤケクソだ、落ちるリスクはあろうと今はロボットをより追い詰める事を考えねーとな...
すると思った以上に遠くに跳ぶことができた、こんな事想定もしていなかったオレは、ミサのいる橋へと一気に到達し、そのまま着地した。
おそらく時間が遅くなった影響なんだろーな。
ロボットはミサのいる橋まで飛ばされ、転がり柵にぶつかる。
ロボットはまたよろよろと立ち上がったが、ミサは銃弾をロボットに乱射し、何発もたたきこんだ。
ロボットの外装の破損が少し大きくなり、内部構造が露見し始めていた。直径10センチほどの穴からは、精巧な部品や、青く光り流れるエネルギーが見えていた。

ロボットはまた逃げ、また橋から飛び降り別の空間に逃げる。
だがオレはそれを逃がさず、橋から飛び降り歪みからワープして、そしてその空間にいるロボットに一気に距離を縮め、跳び蹴りをかまそうとする。
遅くなっても強いロボットだからなのか、ロボットはなんとかしてそれを避け、刀をオレに向かって振るう。だがそれも遅くなっており、人間の素振りと同じ速さになっていた。
オレはそれを避ける。
ミサも続いてワープし、ロボットの背後から銃弾をぶつける。
ワープした後の空間も袋小路で、次はオレ達がロボットを追い詰める番になっていた。
ロボットからは煙が少し出始めている。
オレはトドメに跳び蹴りをかまそうとした。
そのときだった。

ロボットの後ろ100メートルほど離れた巨大な壁にゆっくりとひびが入り、壊れた壁のがれきがここへ迫ってきた。
時間が遅くなったとはいえ一気に爆発的に壊れたので、がれきの勢いはすさまじかった。おそらく時間が遅くなっていなければ一瞬でやられていただろう。

ロボットは橋から飛び降り、姿をくらまして、いなくなってしまった。

オレたちはロボットにトドメをさすことができないまま、がれきから逃げ続けることしかできなかった。
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